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一期一会の本と日常のおはなし

「おおきな木」原題はTHE GIVING TREE

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まさに「与える木」のお話です。

「おおきな木」 

あすなろ書房 2010年9月 初版) 

作者 シェル・シルヴァスタイン  

訳者 村上春樹

まず本書の背景について

原作は1964年、前述の通り

タイトルは「THE GIVING TREE」(日本語訳「与える木」)

 

訳者の村上春樹さんのあとがきによると

 

日本語訳はそれまで篠崎書林から

本田錦一郎さんの訳で出版されていましたが

翻訳者がなくなり、出版社が変わることになった事情もあり

村上春樹さんによって訳をあらためることになったそうです。

ただ、

長く読み続けられた本なので、混乱を避けるために「おおきな木」という元の題はそのまま使わせていただきました。

とありました。

さらに

「木」は原文では「彼女」と書かれているそうで

木の言葉は女性の語り口になったとのこと。

 

世界中で60年近く愛され続けている本作は

分かりやすい言葉で内容もシンプルですが

読む人によって様々な顔を見せるストーリーです。

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どんなお話…

小さな少年のことが大好きな一本の木。

毎日遊びに来る少年と大の仲良しで

この時期、木と少年は本当に幸せそうでした。

 

しかし月日が流れ少年が成長するにつれ

ふたりの関係は少しずつ変化していきます。

 

滅多に現れなくなった少年

現れるのは、必ず木に何かを要求するときです。

それでも木はうれしくてうれしくて

少年の願いを何とか叶えようとします。

それは言葉通り身を切る行為です。

 

自分の身がどのようになろうとも

少年の要望に応えて与え続けようとする木と

青年になり老人になっても

木から「坊や」と呼ばれ要求し続ける少年。

 

村上春樹さんの訳は

そんなふたりのやりとりを

じんわりと皮膚に染みこむような言葉で描いています。

 

物語の終盤、ある意味無残な姿になった木ですが

それでもその時の状況に幸せを感じています。

 

幸せだと書いてあるので

木の気持ちはそうなんだと思います。

一方……要求を続けた人生の末

背中も丸くなって、くたびれた老人の姿の

少年のほうは幸せだったのかどうなのか

表情の乏しくなった顔からは読み取れず

私は少年の気持ちが気になりました。

ふたたび、あとがきより

村上春樹さんは、このお話には

…できあいの言葉ではすらりと説明することのできない、奥行きのある感情が込められています。…

と書いています。

また

…作者シルヴァンスタインは……自分自身の心にまっすぐ向かってこの物語を書いている……そのような姿勢が、…子供たちの心を素直に打つのだ…

とも。

さらには

…あなたが何歳であれ、できたら何度も何度もこのお話を読み返していただきたいと思います。一度ですんなりと理解し、納得する必要はありません。よくわからなくとも、つまらなくても、反撥を感じでも、腑に落ちなくてもやもやとしたものがあとに残っても、悲しすぎる、つらすぎると感じても、腹が立っても、とにかく何度も読み返してみて下さい。…

と。

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村上春樹さんが仰るんだから

そうしようかと思います。

 

はじめは「木」の気持ちに

少ししたら「少年」の心へ

時間が経って今は「自分」ならと

 

かわいそうな気がしたり

これでいいんだと思ったり

こんなもんだよと感じたり

 

読み返すたび

読後の日にちが経つにつれ

この物語に対する私の感想は

今も変わり続けています。