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一期一会の本と日常のおはなし

【今週の絵本】よいわるいがあったのね

今週読んだ絵本です。

「ヨイヨワネ」あおむけ編

作:ヨシタケシンスケ

(筑摩書房 ちくま文庫 2025年3月20日発行)

絵本、というよりスケッチ集なのかもしれませんが

図書館の児童コーナーで借りましたので絵本かもしれない。

タイトル、ヨイワヨネではないのでお間違いなく。

皆さんとっくにお気づきかもしれませんが、「良い弱音」のことです。

 

作者のヨシタケシンスケさんが日々書き留めたイラストと言葉による「弱音」の数々の一部が、この本にまとめられています。「あおむけ編」と「うつぶせ編」があり、「あおむけ編」は、背表紙の言葉によると「魂が疲れ気味のあなたを励ましてくれる一冊」です。

弱音を吐く、気持ちを表に出すのは心の健康を保つために良いことだと考えている作者による「良い弱音」あおむけ編のなかには、たくさんの弱音がぎっしりちりばめられています。

言葉だけでなく、イラストが一緒にあるのが良いと思いました。もし言葉だけだったら重く感じてしまいそうなコメントも、ヨシタケシンスケさん特有の、ユーモアがあって、どこか飄々とした雰囲気のイラストによって、弱音を体の中に留めずに、ふんわり空中に浮かび上がらせて雲の彼方に溶け込ませてくれるように感じました。

大体、もやもやしている時に、自分で上手く言語化できる人ってどれだけいるのか。イラストになれば尚更センスが必要で、どちらも不得手な私にとっては、誰かにこんなふうにその時の感情を具体的に表現してもらえると、かなり助かるかもしれない、と思いました。

なになに、そういうことはじっくり苦しんで自分で形作って吐き出すのがよいのでは、とおっしゃる方もいるかもしれない。確かにこれは楽しすぎてるかもしれない?

しかし、この本にある弱音はほんの一部だそうですが、私から見るとこんなに色々弱音ってあるんだと多少おなか一杯になるくらい弱音が載っていますので、どれかひとつぐらいは、読んだ方の心がスッと軽くなるものがあるかもしれないのです。私は2つか3つくらいありました。病気も早期発見が大事なように、弱音もさっさと言語化して吐き出すために、ここは他人の手を借りるのもひとつです。

忙しい時代、もやもやを自分でも気づかないうちに、そのまま心の引き出しにしまい込んでしまっていませんか。今夏雨の多い日が続いて引き出しの奥がカビて大変なことになってしまったように、そのままにしておくと心身をいつの間にか蝕むようなこともあるかもしれないですから、ヨシタケシンスケさんの弱音をお借りして日に当ててさっぱり健全化するのもいいかもしれません。

【今週の絵本】名場面からはじめる

今週読んだ絵本です。

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「絵本 シェイクスピア劇場」

画:安野光雅

文:松岡和子

(講談社 1998年11月20日 第1刷)

 

縦横25cmと大きめサイズ、重厚感もあります。どんな絵本かと思ったら、見開き1ページごとにシェイクスピアの全戯曲37作品の1作品が書かれていました。向かって左側にあらすじ、右側にその作品の名シーンのイラストが並んでいます。

 

1942年生まれ、大学で17世紀イギリス演劇を専攻された松岡和子さんはシェイクスピアの第一人者。28年もかけてシェイクスピアの全戯曲を個人で翻訳されたそう。この絵本では、的確で無駄のない表現で作品の全容がまとめられています。

その右隣一面に安野光雅さんが描く各戯曲のワンシーン。舞台の全景に小さく描かれる人物ひとりひとりの動きからも、それぞれの感情が伝わってくるような細やかさです。

 

シェイクスピア、超有名ですが、私、実はストーリーについてはあんまりよく知らない。なのに、タイトルは全部知っていました。日本語の。大して知らない私にも、こんなに浸み込むように見覚え聞き覚えのあるタイトルだけでも、本人がすごいのはもちろんですが、翻訳された方もすごい、と妙なところに感心しました。お気に召すまま、から騒ぎ、終わりよければすべてよし、ジョンにリチャード、ハムレット。

 

とある文庫本の短編集を読んでいたら物語の終わりに引用されていた「夏の世の夢」のワンフレーズがずっと気になっていて、図書館で検索したら見つけた本書ですが、そんな知らないけど気になっているひとにもぴったりな一冊だと思います。

【今週の絵本】つきまでとどけ

今週読んだ絵本です。

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「つきをいる」中国民話

SHOOTING THE MOON -An Old Chinese Tale

訳:君島久子

画:瀬川康男

(福音館書店 1962年10月1日 月刊「こどものとも」発行 2026年4月5日 第1刷 「こどものとも」70周年記念出版 ことものとも世界昔ばなしの旅Ⅲ)

中国に伝わる昔話。

 

月がこの昔話のように、もしも熱く燃えたぎって夜も太陽のように地球を照らし続けるようになったなら。

その時、地球で暮らす人々は、どんな対応をするでしょう。

 

作品に登場するのは若い夫婦。夫の「やーら」」は弓が、妻の「にーお」は機織りが得意です。

月から降り注ぐ暑さに作物は育たず夜も眠れず、人々は困り果てていました。

そこで妻の「にーお」は弓の名手である夫に向かい、弓で月を撃ち落としてほしいと頼むのでした・・・

 

文章は全てひらがなで書かれています。奇想天外な出来事が次々起こりますが、わかりやすく想像しやすい言葉で表現されているので、小さな子どもが声に出して読んでも楽しそうです。

そして、素朴で力強い筆使いの黒い線と、朱色がかった赤や濃い紫味を帯びた瑠璃色が目に鮮やかな画。ごつごつした岩の塊に太陽のような炎で周りを囲んだ月の絵はこれまで初めて目にするものでした。シンプルなのに味わいのある画が、物語の不思議さを盛り立てています。

 

どんな時代に、どんな環境でこの昔話は生まれたのでしょう。

何か、その頃本当に人々が恐れるような現象が月に現れたことがきっかけになっていたのかもしれないと、昔々に想いを馳せながら読みました。

【今週の絵本】近い将来こんな街が。

今週読んだ絵本です。

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「おそうじロボットのキュキュ」

作:こもりまこと

(偕成社 2021年1月 初版1刷)

物語の舞台は、都会のはずれのロボットだけが暮らす街。

あちこちで最近のAI事情を小耳にはさむにつけ、こんな街が当たり前に存在する世界がそう遠くない未来にあるのでは、と思ってしまいます。

 

巻末に書かれた作者のプロフィールには、「子どものときから紙とエンピツを持たせると自動車を描いていた」とあります。数々の絵本を描かれていますが、どれも自動車に関するものだそうです。

そんな超メカ好き作者の描くロボットだけの街は、アメリカンポップの雰囲気を感じる明るくて遊び心に満ちた世界です。

 

主人公のキュキュは、立ち並ぶ自動販売機ロボットたちの身の回りをお掃除して、いつもきれいに保つためせっせと働く小型の四角いロボット。二つの丸く空いた目のように見える部分は、空き缶を入れる仕様になっています。不思議、一見ただの空き缶入れのダストボックスな外見なのに、なぜか可愛くみえてしまう。

 

この絵本はそんな健気なお掃除ロボットのキュキュの身に起こったアクシデントをエッセンスに、ロボットだらけのロボットだけの街の日常を描いた作品。

人風ロボットや犬型、ハチ型(?)ロボットも登場します。ロボットの街、登場するのはいろいろなタイプのロボットばかりですが、その暮らしぶりはなんとなく人間味を感じる作品です。

【今週の絵本】猫にも物語は必要?

今週読んだ絵本です。

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「すごいぜ ほんの ちからって!

 モーリスの おうちは ライブラリー」

文:ディディエ・レヴィ

絵:ロレンツォ・サンジョ

訳:はしづめちよこ

(イマジネイション・プラス 2024年2月 第1刷発行)

原題le super pouvoir des histoires(物語が持つ驚異的な力)

ネズミたちに読み聞かせをする猫のお話。

その名はモーリス。

モーリスは、優しい猫だから読み聞かせしようって訳じゃない。

はじめは、ネズミを捕まえて食べるための手段として思い付いた読み聞かせ。

ところが、悲しい話を読めば悲しくなって捕まえる気分がなくなり

面白い話では笑いすぎて、一緒に笑うネズミを食べる気が失せて。

 

黒に白いハチ割れ猫のモーリスは物語が大好き。

部屋の中には本がいっぱいです。

本棚はもちろん、たくさんの本が部屋中に重ねられたり、開かれて置かれている様子を見ているだけでも本好きには楽しい光景だと思います。

 

それならと、今度は退屈な本を読んでみることにしますが、みんなで眠ってしまいこれまた失敗。

なんとかネズミを捕まえて食べられるような物語はないかと思案した猫のモーリスは、ふと、自分で物語を書いてみることを思い立ちますが・・・

 

人にも猫にもネズミにも物語は必要。

物語は、私たちを新しい場所、知らない世界、思いがけない関係へ連れて行ってくれます。

そんな素敵な物語を教えてくれる絵本です。

 


    
    
    
  

【今週の絵本】よく切れそう。

今週読んだ絵本です。

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「とこやのザリガニータ」

作・絵:タツトミ カオ

(ひかりのくに 2024年4月 初版発行)

 

絵本の魅力のひとつは、どんなものでも主人公になれることじゃないだろうか。

今日の絵本の主人公は「ザリガニ」。しかも床屋さんをやっている。さらに、腕が良くて人気があるらしい。自前のハサミを駆使して、お客さんの要望にぴったりの髪型に仕上げる見事な腕前。

お客さんは、伸び放題のロングヘアーに悩むとうもろこしや、下駄を履いてやってきたちょんまげ希望のなす男子などなど。

みんなに愛される床屋さんのザリガニータですが、ある日、思いがけない出来事のために、大事な商売道具のハサミが片方取れてしまいます・・・

 

巻末に書かれた「作者のことば」には、ザリガニに対する愛情が感じられます。小学生だった息子さんが見つけてきた小さなザリガニを飼育していたことがあるそう。そのザリガニは片方のハサミがなかったそうです。本作は、そのザリガニの姿に励まされて作られた、20年前のデビュー作。

 

愉快な登場人物を、明るいパステルカラーのユーモア溢れるイラストで描いた楽しい絵本を読んでみませんか。

そうそう、ザリガニータには、かわいい弟子がいます。いつもザリガニータの隣にいる見習いサワガニッチのお茶目なやらかしにも注目してください。

 

【今週の絵本】小さな小さな主人公

今週読んだ絵本です。

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「小さな共生者たち 森のネットワークのはなし」

文:エイルサ・ワイルド

絵:アヴェーヴァ・リード

アートディレクター:ブライオニー・バー

サイエンスディレクター:グレゴリー・クロチェッティ

日本語版監修:玉川大学学術研究所菌学応用研究センター

訳:松本有希子

(玉川大学出版部 2026年1月10日 初版第1刷発行)

英語の原題は

「The Forest in the Tree: How Fungi Shape the Earth」

一人称の主人公「ぼく」は土のなかに住む菌類の胞子です。

「ぼく」がどうやって「木」の中に「森」を作るのか。

すぐそばで、しかも40億年も前から行われている菌類の営み。

小さすぎて人間の肉眼では見ることができない、ミクロの世界を

「ぼく」自身の言葉と、目には見えない土の中の複雑なシステムをイラストで視覚化した作品です。

 

前半は地下にひそむ胞子の「ぼく」が

どうやって食べものを探したり、住処を見つけるか。

どんなふうに地面の中に大きなネットワークを作っていくか、

住処となった「木」にどんな恩恵をもたらすか、お互いにどのように助け合っているか、といったことが細密で温かみのある柔らかなイラストとともに語られていきます。

 

後半は、物語にでてくる科学についての解説です。

物語の中には、「ブロマ」や「グロムス」「アクチノ・アゾ・モナ・ティリー」など初めて耳にする言葉も多かったですが、それらの用語やそれぞれの関係性についても丁寧に解説されています。

 

解説の中には、物語中の文章から大切な部分を抜粋して、さらに詳しく説明しているところもあり、より科学を身近に感じるきっかけになりそうです。

小さじ1杯ほどの土の中に、どれほど多くの生命の営みが繰り広げられているか、それが私たち人間も含む地球上の全生命に、どれほどの恩恵を与えているものなのかがこの絵本には詰まっています。

全4巻のシリーズ、ほかには

「サンゴの白化のはなし」

「光るイカのはなし」

「土の循環のはなし」があります。