hon de honwaka

一期一会の本と日常のおはなし

【今週の絵本】立場が変われば見方も変わる

視点を変えるきっかけになるかも?

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1作目は怖いもの知らずの子ミミズクのお話。

「ちびミミズクのこわーいいちにち」

作:ペトル・ホラチェック

訳:いわじょう よしひと

BL出版 2024年6月20日 第1刷発行)

 

作者のペトル・ホラチェックさんはチェコプラハ生まれの、画家・グラフィックデザイナー。本作のイラストは、カラフルでポップで自由なタッチ。活き活きしたエネルギーを感じます。

 

お母さんミミズクに「昼の世界は怖いのよ」と諭されても、まだ外に出たことのないちびミミズクには納得できません。好奇心を抑えられないちびミミズクは、お母さんミミズクが寝ている間に、昼の世界へ飛び出してしまいます…

 

昼の世界が怖い?人間にとっては、どちらかと言うと夜の方が怖そうですが。

 

はじめは明るい時間に空を飛ぶことが楽しくて仕方なかったちびミミズクですが、ひと休みした草地の物陰から何か嫌な気配が。

ドキドキハラハラしながら、危ういところで無事お母さんのいるはずの巣に戻ったちびミミズク。しかしそこにお母さんがいません…

 

確かにミミズクにとっては昼は危険がいっぱいなお話です。

2作目は、ただ冬眠していただけなのに…

「ぼくは くまのままでいたかったのに…」

文:イエルク・シュタイナー

絵:イエルク・ミュラー

訳:大島かおり

ほるぷ出版 1978年10月15日 第1刷/2024年6月4日 新版第1刷)

 

作者と画家は共にスイス生まれ。本作はふたりが組んで初めて描いた絵本です。

本作は、ほるぷ出版の「リメンバークラシック絵本」の一作。

 

人間の勝手で、とんだ災難に巻き込まれてしまったクマのお話。47年ほど前に書かれた作品に、今なお人間は相変わらず勝手であることを再認識させられます。

 

森のなかで季節が移り変わり、いつものように冬がやってきて、スヤスヤと眠りについたクマが春目覚めると、外は別世界になっていました。

冬の間に人間が木々を切り倒し森の真ん中、クマの冬眠する巣穴の真上に工場を建てていたのです。

 

驚くことに工場の人びとは、冬眠から目覚めて現れたクマがどんなに「自分はクマだ」と主張しても信じません。髭も剃らない怠け者の人間だと決めつけて、ついにはクマも自分が何者なのか訳が分からなくなって工場で働くことに…

 

この作品には、動物と人間との関わりに甘さを感じませんでした。そこにあるのは、人間の自分勝手さ、他の生きものに対する無理解。

淡々と進む物語のなかに、チクチクとした痛みを感じながら読みました。物語のおしまいは、はっきりとした結末が言い表されいません。どうとるかは読者次第、なのでしょうか。

 

生きものにはそれぞれの事情があり、人間といえども個人個人で違う事情があり、怖ろしいとか嫌だとか思うだけではなく、相手の状況を理解しようとする気持ちも必要なのではないかと思わせられた作品でした。

【今週の絵本】新年は発想想像変化力で

古今東西、笑って元気に。

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1冊目は、2024年発行、日本の作家さんによる作品です。

「いちごりら」

作:麻生かづこ

絵:かねこまさ

ポプラ社 2024年6月 第1刷/2024年7月 第3刷)

 

 

ひと月の間に3刷の増刷。表紙を開いてページをめくるたびに納得。

作者の麻生かづこさんは、大阪府生まれ、千葉県育ち。画家のかねこまきさんは、東京都生まれ、埼玉県育ち。どちらもこてこての?日本在住の方のようです。

作者の発想の豊かさや面白さを、画家のリアルでありながら細部にまでユーモア溢れる独特の絵で表現した世界観に、見た途端に笑いのスイッチが入ります。表紙絵のインパクトは、作品中最後まで続き期待を裏切りません。

お話の展開は、「○○好きな〇〇〇さんが○○をいっぱい食べったら」どうなったか。次々登場する〇〇〇さんのアッと驚く変身ぶり。絵の中の脇役たちのアッと驚く姿も可笑しみがいっぱいです。細かなところまでじっくりと眺めて、二度笑い三度笑いしてください。

お正月、お餅をいっぱい食べたら…?とかおせちをいっぱい食べたら…?とか想像してみるのも楽しい、年の初めのスタートにぴったりな愉快な作品です。

2冊目は、1979年発行、リューデンシャイト生まれの作家さんの作品。

「まどをあけたあとで……」

作:ウィルヘルム・シュローテ

ほるぷ出版 1979年1月15日 第1刷/1979年11月10日 第4刷発行)

 

とはいえ、リューデンシャイトって?ざっくりですが、ドイツ西部にある工業都市だそう。1975年からはドイツ第2の大都市ハンブルグ在住。

 

こちらの絵本も約1年の間に4刷の増刷。1作目に紹介した「いちごりら」にも通じる想像力の豊かさが魅力の作品です。

 

本作には言葉がありません。美しくシンプルな構成、落ち着いた色合いのイラスト。ページを開くと、見開きの一面を使って、同じ形状の4つの窓が描かれています。左から右へ、一窓ずつ窓の外に見えるものが少しずつ形を変えていき、4つ目の窓には最初の窓からは思いもよらない、見る者をハッとさせる姿が現れます。

表紙絵に見える月は、思わず笑みがこぼれるある生きものの顔に。

雨粒が変化するものは何だと思いますか。三日月と一番星は何に?

 

本作のあとがきにも記されていますが、「…もし人びとに想像力がなければーーー」どうなっていたでしょう。世界は今とは全く違ったものになっていたように思います。

 

今回読んだ2作品は国も違えば世代も違いますが、どちらの作品にも変化に心躍る場面がありました。

「もしも想像力がなかったら…」そんな世界を束の間想像するもよし、ですが、たとえ妄想でもいいので前向きな未来を思い描きながら新年を始めたいと思いました。

【今週の絵本】あつあつほっこり冬の滋味

今週は安房直子さんの童話で冬を堪能しました。

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「ふろふき大根のゆうべ」

安房直子 絵ぶんこ1

文:安房直子

絵:アヤ井アキコ

あすなろ書房 2024年4月30日 初版発行)

 

ふろふき大根、この言葉を聞いただけで、白い湯気が立ち、あめ色に煮詰められた厚切りの丸大根が目の前に浮かび、底冷えするような冬のある日に、フーフー息を吹きかけつつ、お箸で割った一欠けらを大急ぎで口に入れるところまで思い起こしてしまいます。

胃袋があったかくなってきた気がしますが、本作は胃だけじゃなく心のほうもしみじみと温めてくれる作品でした。

 

冬の近づく夕暮れ時の山道で出会うふたりの会話から物語は始まります。

家路へ急ぐ峠の茶店の茂平さんの前に現れたのは、手ぬぐいでほっかむりをした大きな動物。手には買い物かごをぶら下げています。

茂平さんが思わず呼び止めてよく見ると、それは一頭の「ふっくりふとった」いのしし。

いのししに頼まれ茂平さんが持っていた大根を分けてあげると、喜んだいのししは茂平さんを「ふろふき大根のゆうべ」へ招待してくれました・・・

 

安房直子さんの柔らかな言葉で紡がれる茂平さんといのししのやりとりは、しみじみとしていて、なんとも自然で温かです。

 

とっぷり」とか「ほやほや」とか「ぬうっと」とか擬態語が散りばめられています。

 

外は深々とした寒さに包まれていますが、いのししの家の中は、大きな囲炉裏に掛けられた大きな鉄鍋から立ち昇るふろふき大根の湯気でとても暖かそうだし、

ふろふき大根を食べながら語り合う3頭のいのししたちの物語は、美しくもあり明るくもある夢のようで、日常の悲しみを乗り越える力があります。

 

アヤ井アキコさんによるイラストも物語の雰囲気を見事に描いています。いのししは愛嬌があって、ほっかむりがとてもよく似合っています。ふろふき大根の絵は、ホクホクとした大根の食感がよみがえり、いますぐ食べたくなる美味しそうな佇まいです。

 

物語の始まりから終わりまで、当たり前のことで何でもないことのように、気が付かずに通り過ぎてしまうほどのさりげなさで語られている、茂平さんといのししの、お互いを大切に思いやる優しさが垣間見られるシーンも心に沁みました。

 

さて、いのししたちの「ふろふき大根のゆうべ」で一番大事なのは湯気。なぜでしょう?

ゆうべの宴には、もう一品とても美味しそうなご馳走も登場します。なんだと思います?

皆さんなら、どんな場面に魅かれるでしょうか。ぜひ物語を読んでみて感想をお聞きしたい作品です。

 

そして、安房直子さんの気負いのない、たおやかな文体に心惹かれましたので、他の作品も読んでみたいと思いました。

【今週の絵本】言葉の楽しさ満載の絵本

今週読んだのは同じ作者の作品2冊です。

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一作目は、ニューヨークタイムズベストセラー・Amazon USAベストセラーになった作品なので、ご存じの方が多いかも。

「翻訳できない世界のことば」

作:エラ・フランシス・サンダース

訳:前田まゆみ

創元社 2016年4月20日 第1版第1刷発行)

 

私は以前に紹介した絵本「くまのこポーロ」の訳者・前田まゆみさんを追いかけて、この本に辿り着きました。

著者のエラ・フランシス・サンダースさんは、プロフィールを見ると、この作品を作ったとき20代。さまざまな国に住んだことがあるそうです。文章だけでなくイラストも手掛けています。

見開きの1画面に、いろいろな国の翻訳できない1つの言葉がイラストとともに、解説付きで描かれています。”翻訳できない”というのは、その国の言葉では1つの単語で言い表せても、ほかの国の言葉では1つの単語では翻訳できないこと。日本語の単語もいくつか採り上げられていますが、例えば「わびさび」。ほかの国の言語では、これと全く同じ意味を持つ単語はないということです。

 

言葉の意味を表現する、さりげないユーモアが散りばめられた洗練されたイラストも素敵です。毎日1ページずつ開いて、絵画のように立てかけて眺めたら楽しそう。さらに日本語訳の本作には、原作にはない言葉の読み方がカタカナで追加されています。

 

アイスランド語の動詞「ティー」どんな意味だと思いますか?オレンジ色と黄土色の小さな無数のボタン状の時計がイラストには描かれています。イラストのなかに記されたその意味は「時間やお金があるのに、それを費やす気持ちの準備ができていない。」なんと、たった4文字で、こんなに込み入った意味が込められているとは。日本語には同じ意味の単語はないですね。

 

こんな興味深い「翻訳できない世界のことば」が本作には52語も詰まっています。

もうひとつだけ私のお気に入りの言葉をご紹介。それは、「ポロンクセマ」。フィンランド語の名詞です。意味は「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離。」=約7.5㎞だそうです。

 



もう一冊は、同じ著者の

「誰も知らない世界のことわざ」

作:エラ・フランシス・サンダース

訳:前田まゆみ

創元社 2016年10月10日 第1版第1刷発行)

 

こちらもポップで洗練されたイラストとともに、見開きの1ページに各国の、私は聞いたこともない、どんな意味なのか想像もつかないことわざが、意味の詳しい解説と、ことわざの日本語訳と共に描かれています。

 

フィンランド語のことわざ「ウサギになって旅をする。」皆さんならどんなイメージを持ちますか?著者によるイラストはとっても可愛いんです。連なる列車の一台に、大きな薄茶色のウサギが乗っています。きっと楽しい良い意味があるんだろうな?と解説を読んでみると意外や意外。「切符代を払わずに旅をする」という全然よろしくない意味で使われています。

 

それに対して、ペルシア語の「あなたのレバーをいただきます。」は思いがけない良い意味が。てっきりサスペンスかスリラーの要素がある言葉かと思いましたが、このことわざには深い愛情を表現するときに使われています。意味は「あなたのためなら、何でもする」「心から愛している」「食べてしまいたいくらい、あなたを愛している」。でも、日本でもしこのことわざで愛情表現しようとしたら、きっと逆効果、相当怖がられてしまいますね。

 

アイルランド語で「ブタの背中にのっている。」とか

コロンビア・スペイン語の「郵便配達員のくつ下のように飲み込まれる。」とか

固定観念を破壊してくれることわざの数々が詰まっている、目から鱗の絵本でした。

【今週の絵本】クリスマス絵本part3

今回は自分に贈りたくなった作品です。

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サンタ・クロースはいると思いますか。

何歳ごろまでいると思っていましたか。

「ファーザー・クリスマス

 サンタ・クロースからの手紙」

作:J.R.R.トールキン

編:ベイリー・トールキン

訳:瀬田貞二田中明

(評論社 2006年10月20日初版発行)

遠い記憶をたどると、私の夢がはかなく散ったのは幼稚園の年長さんのころ。

それは、新聞(たぶん朝日)の四コマ漫画(たぶんサザエさん)によってもたらされました。きっと新聞の四コマ漫画、幼稚園児は読まないと、今はどうだかわかりませんが、当時は考えられていたのかもしれません。

しかし、私は読んでいました、漫画だけ。結構楽しみにしていた記憶もあります、その時までは。

はっきりとは覚えていませんが、「両親がサンタに成り代わってプレゼントを準備する」といった内容で、密かに衝撃を受けた私は、母に尋ねたのです。「サンタクロースはいないの?」・・・母は迷うこともなくあっさり「いないよ」・・・あまりにもにべもない返答に返す言葉もなく、その言葉をひっそりと内心で受け止めそっと涙したのでした。でもそのあとも、時期がくればサンタクロースにクリスマスプレゼントのお願いはしましたけどね。

 

本作は、かの有名な指輪物語の作者J.R.R.トールキンさんが、サンタ・クロースになりきって自身の4人の子どもたちへ20年に渡り書き送り続けたクリスマス・レター集です。

 

サンタさんが少し震える手で書いたという、どこか謎めいて歴史を感じる直筆の文字よる手紙。そこに美しく細やかで時に遊び心満載のユーモラスなイラストが添えられています。トールキンさんのサンタワールドでは、毎年ちょっとした可笑しな事件があったり、クリスマスプレゼントの準備に大忙しの活き活きした様子が綴られていて、どんどん惹きこまれます。

 

この作品を読んで(とは言え何といっても20年分のサンタさんからの手紙で編集されている作品なのでまだ途中までなのですが)、こんなお手紙をサンタさんから毎年もらったら、世の中の全ての四コマ漫画が「サンタなんていないよ!」って言ったとしても、サンタ・クロースはいるって信じ続けたんじゃないかなと思います。

実際、この手紙の中には、確かに1927歳(1923年時点で)のサンタ・クロースは存在するし、サンタさんだけじゃない、サンタさんの助手でしょっちゅうサンタさんを困らせてる(?)北極グマのカルフ(名前)も庭師の雪人も、ローリー・ボーリー・アイリス花火(オーロラ花火のこと)も確かに存在しています。いないわけない!

 

本作に触れ、サンタ・クロースがいるのは勿論のこと、どこにいるのかが分かった気がしました。

さてさて、トールキンさんのサンタ・クロースが、手紙の最後に記した言葉を皆さまへのクリスマスプレゼントして締めくくりにします。

あんた方全員に愛をおくる。

そして来る年の幸福を祈る。

 

あんた方を愛するサンタ・クロースより

 

 

【今週の絵本】クリスマスの絵本part2

12月はなんといってもクリスマス。

数々出版されているので、多彩な作品に出合うよろこびがあります。

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まず1作目は、あのターシャ・テューダーさん母子の作品です。

「こねこのクリスマス」The Christmas Cat

絵:ターシャ・テューダー

作:エフナー・テューダー・ホールムス

訳:辻紀子

いのちのことば社フォレストブックス 2006年9月25日発行)

 

娘のエフナーさんが物語を書き、母であるターシャ・テューダーさんが絵を描きました。原作は1976年に発行されています。

 

クリスマスの前の日のお話。主人公はこねこ

キジシロ(キジトラ柄に白いハチ割れ)の、みなさんもきっとどこかで見かけたことがあるのでは?と思える、ご近所を闊歩していそうなタイプの子猫です。

そんなこねこが冷たい風の吹きすさぶ森の中をさまよっています。迷子?いいえ、そうではなかったのです。こねこには、辛い過去がありました…

 

ターシャ・テューダーさんの柔らかい筆使いには、動物や木々や風にさえも慈愛の籠った温もりを感じます。自然をとても愛し、自然と共に生きた方だからこそ描ける味わい深いイラスト。

それにしても、娘さんとの共作なんてステキ~

 

こねこの辛い過去は、私たち人間が恥ずかしくなりガッカリしてしまう原因で起こるのですが、クリスマスにはこの世界に存在するすべてのものたちに奇跡と祝福がもたらされ・・・人間の良い面悪い面も映し出したストーリー展開となっていて、印象深く読み終えました。

次の作品は、ちいさなちいさなもみの木に舞い降りたクリスマスの奇跡です。

「ちいさなもみのき」

文:ファビエンヌ・ムニエ

絵:ダニエル・エノン

訳:河野万里子

ほるぷ出版 2006年9月30日 第1刷発行)

 

ある町の丘の上に生えていた小さなもみの木が主役です。この小さなもみの木の将来の夢は、遠くに見える大きなもみの木たちのように立派なもみの木になること。けれどある日、トラックから降りてきたおじさんにシャベルで掘り起こされ、植木鉢に入れられると人々が賑わうデパートの前に連れて行かれてしまいます・・・

 

全体にふわりと軽く明るく進んでいくイラストとストーリーで、絶体絶命のピンチか!と自ら観念した小さなもみの木にも大きな大きなクリスマスの奇跡が訪れる結末となっています。

幸せはどこからやってくるかわからないものです。クリスマスにぴったりのホッとするハッピーエンドストーリー。

ただ…主題とはずれていると思いつつ、私はさり気なく描かれているトラックに乗せられた他のもみの木たちの行方に、少し胸が痛みました。

人間の喜びのために役立って生涯を終えていくものたちがこの世界にはどれほどいることか。そのことに、心から感謝しなければならないとも感じたお話でした。

本日最後の3作目は、飛ばないゆきだるまくん。

「ぼくのゆきだるまくん」

文:アリスン・マギー

絵:マーク・ローゼンタール

訳:なかがわちひろ

主婦の友社 2011年11月30日 第1刷発行)

 

登場人物は主人公の少年だけ。少年の心の声が文章となって物語が進みます。

それは、落ち葉が舞い散る秋から雪が降り積もる冬、そして春が来て夏を迎え、再び秋から冬へと巡る一年のお話。

少年は積もった雪で、「ゆきだるまくん」を作ります。口をつけて目と鼻をつけて、手もつけてあげたあと、自分の被っていた赤い帽子を被せてあげました。

「ゆきだるまくん」はただずっとそこに佇んでいるだけですが、少年にとっては大切な存在になっていきます。けれど、だんだん季節が春へと向かって暖かくなると、ゆきだるまくんは姿を消してしまいました・・・

 

少年は思います、「ゆきだるまくんはきっとどこかにいる」と。雨になったり窓ガラスについた水滴になったり?

誰が少年に伝えたのでしょうか、少年はこう思っています。

たいせつにしたものは、なくならないんだって。

ちゃんと どこかに いるんだって。

少年はゆきだるまくんに再び会うことができるでしょうか。

 

クリスマスの夜には、今傍らにはいなくてもきっとどこかにいてくれる、どこかからあなたを見守ってくれる大切な存在に思いを馳せてみてはいかがですか?

 

【今週の絵本】クリスマスの絵本part1

12月に入りました。今週はクリスマスにちなんだ絵本を3作品ご紹介します。

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1冊目は、史実に沿ったクリスマスの成り立ちがわかります。

タイトルもそのものズバリ。

「クリスマス」

作:バーバラ・クーニー

訳:安藤紀子

(ロクリン社 2015年11月2日 初版第1刷発行)

 

作者のバーバラ・クーニーさんは以前記事にした「ルピナスさん」を書いた方。

tokinoakari.hatenablog.com

本作では、モノトーンに朱色と緑で色付けした静謐で厳かな感じのするイラストから聖書が思い起こされました。

丁寧で分かりやすい文章で書かれているのは、イエスキリストの誕生に纏わる物語と、どのようにしてクリスマスを祝うようになったか、そしてクリスマスにはそれぞれの国でどんな祝い方をしているか。

クリスマスの成り立ちについて、思わぬ発見があるかもしれません。

 

次は軽快なテンポが小気味良い

「いちばん ちいさな クリスマスプレゼント」

文・絵 ピーター・レイノルズ

訳 なかがわ ちひろ

主婦の友社 2013年11月20日)

 

こちらには、クリスマスの歴史とか由来とか、そういう話は一切出てきません。

小さな男の子のローランドの「クリスマスプレゼント」に対するあくなき願望がひたすら描かれて行くのみ。その願望の膨らみ方が半端ない。地球規模、いえいえ宇宙規模の大きさまで行っちゃいます。さて、ローランドの思いの到達点はどこに?それは絵本を読んでのお楽しみに。

 

子どもたちにとっては、数日もしくはもっと前からこの日が来るのを待ちわびて、サンタクロースさんに何度も真剣にお願いする大事なイベントとしてのクリスマスを、ポップで明るいイラストとともに楽しく愉快に描いた作品です。

 

次の作品、テーマはクリスマスじゃないけれど

「やまなし Mountain Stream」

文:宮沢賢治

英訳:アーサー・ビナード

絵:山村浩二

今人舎Imajinsha 2022年4月8日 初版発行)

 

宮沢賢治さんの「やまなし」に、アーサー・ビナードさんが英訳した文章が併記されている作品です。

当然ながら、といいますかクリスマスとはほぼ関係のないお話ではあります。強いて言えば後半「12月」の物語が描かれていることが共通点となるでしょうか。

もちろん「クリスマス」という言葉は全く出てきません。ですが、「クリスマス」の「ク」の字も出てこないかというとそうではないんです。「ク」の字は出てきます。大事な大事なキーワードの最初の文字として。

私は実はしっかりとこのお話を読むのは初めてでした。ですが、この言葉は耳にして、その響きの不思議さにしっかり覚えていました。どういう意味なのか分からないということも印象を強くしていた一因だと思います。

クラムボン

クラムボンって何なのでしょう?ひとりではないようで、笑ったり死んだりするので、生きものであり、個体の固有名称ではなく種類なのでしょうか。

 

青白い水底に住む兄弟カニの子どもの会話で物語は進んで行きます。

山村浩二さんの繊細なタッチと淡い色合いで描かれるイラストから、水底の静けさや水中での出来事が神秘的な雰囲気で伝わってきます。

宮沢賢治さんの言葉は読んでいる者の想像力を掻き立ててくれます。なにかはっきりとはわからない「畏れ」のようなものが全体を静かに薄いベールで包んでいると私には感じられました。

クラムボン

アーサー・ビナードさんの英訳で「クラムボン」は全く違った言葉で表現されています。そのことについての訳者の詳しい解説も巻末の1ページに掲載されていて興味深いです。

 

クリスマスにちなんだものではないけれど、英訳と読み比べてみるのも面白い本作、子どもだけでなく大人にも素敵なクリスマスプレゼントになりそうだと思いました。