美しさと厳しさと。
「すなはまのバレリーナ
エリアナ・パヴロバのおくりもの」
(のら書店 2022年8月 初版)
文 川島京子
絵 ささめやゆき
どんな絵本…
巻末に添えられた作者のあとがき
「三人のバレリーナについて」を読んだところ
この絵本に登場するのは実在の人物です。
明治から令和にいたる歳月を懸命に生きた
3人のバレリーナの人生を描いた作品です。
日本に初めてバレエを広めたバレリーナ
「日本バレエの母」エリアナ・パヴロバ
そのエリアナのもとで学び、
師のバレエに対する思いを受け継いだ母の橘秋子
母の強い志を引き継ぎ、
いっそうバレエ界全体に貢献した娘の牧阿佐美
この3人に共通するのは
バレエに一生の全てを捧げた人生だということです。
舞踏家として、振付師として、教育者として、
3人は日本のバレエ普及に大きな功績を残しています。
その道のりは非常に険しいものでした。
世界中で戦争が起こり
思うようにバレエができない
厳しい時期も多々ありました。
それでも彼女らの心から
バレエに対する情熱を消すことは
誰にも、何ものにもできなかったのです。
物語のストーリーは…
娘・牧阿佐美の目線で進み
その母・橘秋子が娘へ語る回想
「エリアナ・パヴロバの生涯とバレエへの愛」
が物語の主軸となっています。
今から100年程前、ロシア革命により
日本を好きになりバレエ学校を開校します。
その生徒となったのが踊りが大好きだった橘秋子。
激動の時代に翻弄されながらも
バレエへの愛、ただそれだけを貫いた
女性たちの見事な生き方が
ときに苦しみや切なさも交えながら描かれます。
感想を…
広く浅くなんにでも好奇心旺盛な私とは
本作の主人公たちの生き方はだいぶ違うものです。
私は私で自分の性に合ったスタイルを
気に入っていますが、それとは真逆の、
大好きなことを人生の早い段階でひとつ見つけて
そのことに全てを注ぐ彼女たちのような人生も
素敵だなぁと思いました。
ところでタイトルの「すなはまのバレリーナ」
1919年に日本に亡命したエリアナ・パヴロバが
日本で初めて開いたバレエ学校は
鎌倉の七里ガ浜の海辺にありました。
開校したのは1925年のことです。
絵本の最後には、実際に砂浜で踊る生徒たち
バレリーナの写真も掲載されています。
彼女のレッスンはそれは厳しいものだったそう。
「バレエは基礎がすべて」
「魂のある踊りをしなさい」
生涯をバレエに捧げた彼女の教えは、
それから多くのバレリーナに受け継がれ
今も確かに息づいています。