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一期一会の本と日常のおはなし

【この本をかくして】大切にしたのはどんな本?

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緊迫した状況で少年が懸命に守ったものは。

「この本をかくして」

岩崎書店 2017年6月 第1刷)

文 マーガレット・ワイルド  

絵 フレヤ・ブラックウッド  

訳 アーサー・ビナード

どんなストーリー…

戦時下の話です。

少年ピーターは父親と一緒に住み慣れた街を

とるものもとりあえず

急ぎ離れなければならない状況にいます。

 

ある日図書館に爆弾が当たって

ピーターの住んでいた街は粉々になり

図書館にあった本はたった1冊を除いて

全て失われてしまいました。

 

残った1冊は少年の父親が借りていたもの

父親はピーターにその本は宝物だと言います。

何の変哲もない本ですが

その本に書かれているのは昔の人たちの話

そこには街の人々の歴史が詰まっています。

それはどんな金銀宝石より大事な宝物。

 

父親はその本を家にあった鉄の箱に入れました。

 

敵に追われたピーターと父親と街の人々は

長い列を作り長い長い道のりを

安全な場所に向かって歩き続けます。

 

何週間歩いてもたどり着けない距離

ピーターに更なる辛い困難が訪れます。

 

一緒に逃げる街の人たちは

これからもっと歩かなければならないので

鉄の箱を置いていくようピーターに言いました。

 

けれどピーターは自分のカバンを諦めて

鉄の箱を持ち続けました。そして…

この絵本について…

英語の原題は

THE TREASURE BOX」(宝箱)

日本語のタイトルとは全く違います。

英題では本そのものの価値を

日本語訳では箱の中身を守るために

ピーターが取った行動を表しています。

 

イラストからは

細く柔らかな線が静寂を感じます。

戦争のさなか長い逃避行の前半は

人びとも街並みも

重く沈んだ暗色で描かれています。

 

ピーターたちが新天地にたどり着き

ようやく戦争が終わりの近づくと

その暗い世界も少しずつ

明るい色合いを取り戻していきます。

 

イラストのなかに時折出てくる

白地に黒い英文字がびっしりと印刷された

書物のような紙でコラージュした

山並みや大きな樹木が印象的でした。

 

著者のマーガレット・ワイルドさんは

1948年南アフリカに生まれ、その後

オーストラリアのシドニー市に移住。

1984年より子どものための本を書き始め

数々の賞を受賞して、オーストラリアを代表する

児童文学の作家になった方です。

私たちが今こうして在るのは

昔の人たちがその時代その時代を

一生懸命歩み続けてきたから。

絵本の最後に記されたピーターの言葉に

そのことを改めて気付かされました。