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一期一会の本と日常のおはなし

【夜、空をとぶ】アメリカの詩人の絵本

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空を飛ぶ夢は自立心の高まり、とか。

詩人が贈る絵本「夜、空をとぶ」

みすず書房 2000年11月発行) 

文 ランダル・ジャレル  

絵 モーリス・センダック  

訳 長田 弘

 

絵本の作者の紹介から…

 

文:ランダル・ジャレルさんは

20世紀後半のアメリカを代表する詩人のひとり。

1965年に自動車事故で

52歳で亡くなりました。

「われわれが子ども時代を過ごす魔法の森から、ジャレルは魔法の風か何かにのって、魔笛を手に、人間の都市に吹き降ろされてきたような人だった」

と親しかった思想家ハンナ・アーレント

作者を表しています。

この絵本は

ジャレルが遺した最後の子どもの本です。

 

 

絵:モーリス・センダックさんは

1963年に

絵本『かいじゅうたちのいるところ』で

一躍世界に注目されました。

本書「夜、空をとぶ」

センダックが母と自分を描いた絵本として

名高い作品です。

「ぼくは自分自身を、この絵本のなかに赤ん坊のすがたで描いた。この本には1枚、見開きの絵がある。そこに、母の腕に抱かれたぼくが見つかるはずだ。

とセンダックさん自身が語っています。

 

確かにその見開きには、

空に浮かぶ少年のすがたや

鋭く射貫くような目のフクロウ

月夜の森の情景と共に

葉の生い茂る大木の根元のあたりに

こちら側を見ているような母親と赤ちゃん。

どんな絵本…

非常に繊細な目で

主人公の少年を取り巻く環境や少年の動作

心の動きを捉えた文章に惹きつけられます。

 

少年の名前はデイヴィッド

遊び相手は灰色のシマフラウアー(小麦粉)と

でっかくてつやつやしたチャウチャウのレッディ。

周りにはほかに一緒に遊べる子どもがいません

 

夜になると、少年に不思議なことが起こります。

 

デイヴィッドは、夜、空を飛ぶことができるのです。

昼のあいだは、飛べないし

飛べるということを思い出すこともありません。

 

少年はゆっくりと飛びながら

両親の寝室、リビングルーム

ドアから外へと移動します。

お父さんお母さんレッディの夢を眺めながら。

 

外に出るとポーチにいたフラウワーが

ねずみの居場所を示します。

ねずみたちの会話を聞きながら

デイヴィッドは静かに漂い続けます。

 

月の光のなか、

野菜畑から羊たちの群れのうえ

そして広い野原へ。

 

すると一羽のフクロウ

デイヴィッドに近づいてきて語りかけ…

文章に添えられた絵は

この不思議でどこか哀しげで

夜の静かで幻想的な雰囲気の漂う物語を

見事に表現しています。

「ぼくがこの本から読みとったのは、少年の心の飢え、満たされない心の激しい痛みだった」

とはセンダックさんの言葉。

 

私はちょっと違った感想…

少年の哀しみは確かにそこにありますが

フクロウの語る物語に

それでも少年の心に灯る

小さな希望を感じました。

 

みなさんなら

どんなふうに感じるでしょうか。

 


白と黒で描かれた細密な絵と

詩を編むように綴られる静謐な文章

 

大人の方にも読んでいただきたい

静かな叙情漂う絵本です。