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一期一会の本と日常のおはなし

【児童書】見知らぬ感覚になる

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9月も半ばに。そろそろと読書の秋がやってきましたが、南半球はこれから春へ。そういえば、あちら側にも〇〇の秋ってあるのだろうか。

「見知らぬ友」(福音館書店 2021年2月初版) 著者 マルセロ・ビルマヘール 絵 オーガ・フミヒロ 訳 宇野和美

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まずは感想から…

この本は児童書です。福音館書店の世界傑作童話シリーズの一作となります。手に取ってペラペラとめくったところ、文字数も少なそうだし本の厚みもそれほどでもなかったので、簡単に読めそうでした。

侮っていたようです。文章も平易な表現で、サッと読み流せると思っていたのですが、読み終わるまでに時間がかかりました。

短編一作一作が立ち止まって考えてしまう終わり方なんです。衝撃的なわけでもなく、ハッピーエンドなわけでもなく、期待したような終わり方じゃないからなんでしょうか。

単純じゃなくわかりにくい、予想できない最後で余韻が残る、なにか特別なことが起こるわけではないのだけれどスリリングという読後感です。

ふしぎなストーリー

本書は10個の短編フィクション小説で構成されています。原書の副題には訳すると「10個のでっちあげた思い出」とあります。

各ストーリーの主人公は10代だったり大人だったりの「ぼく」。落ちこぼれでもないけれど、クラスメートの中心にいるような目立ったタイプでもない。気になる女の子がいても、遠くから眺めているだけのタイプ。なんとなく冴えない、無難なというか普通というかどこにでもいるような「ぼく」。

彼の目線を通して、淡々と描かれる出来事と思いがけない展開に、どういう意味があるのかしばらく立ち止まってしまいます。

表題作の「見知らぬ友」は、主人公のルシオが(この短編のみ「ぼく」ではない)ピンチに陥ると、見知らぬ少年が現れ彼を救います。ほかの誰にも見えない少年は、大ピンチのルシオを3度助けてくれました。そのおかげでルシオは幸せをつかみ、少年を友と呼びます。しかし大人になったルシオの4度目の大ピンチに少年は現れず、ルシオはみじめな境遇に追い込まれてしまいます。全てを失った自分の生涯を文章にしようと紙を買い、安宿に戻ったルシオの前には、にやけた表情でベットに横たわるあの少年がいて…

ルシオは本当に「見知らぬ友」に助けられたのか。落ちぶれたルシオと謎の少年のやりとりに、どんな意味があるのか。少年はルシオの幻だったのだろうか。ルシオが苦労のすえ身につけた変化に、少年は何を思っただろうか。人間の感情のなんと奥深いことか。。。様々なことが心をよぎります。

物語の舞台と著者について少し…

主な舞台は、南アメリカ、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスです。南米のパリともいわれる美しい街です。文中にでてくる生活風景や歴史・人々の習慣の描写に、その土地柄を感じます。

著者は1966年ブエノスアイレス生まれ。児童文学以外にもマンガやヤングアダルト小説、テレビや映画の脚本などを手掛けマルチで活躍している方です。映画「僕と未来とブエノスアイレス」の脚本も手掛けています。児童文学の翻訳は本書が初めてとなります。

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