朝晩冷えますね。こちらの表紙絵を見ていたら、震災被災地の岩手県大槌町にある「風の電話」を思い出しました。
「北風とぬりえ」(マドラ出版 2001年4月 第1刷) 著者 谷内六郎
本書の構成と内容は…
1.「六郎画集から」
谷内六郎の画集より選ばれた15の絵画。1945年~1974年に描かれた作品。
2.「虫郎物語」
自身の少年時代をオムニバス形式で描いた24作品。
1959~60年に「朗」に連載されたもので、2コマの漫画と対になった短い文章で構成されている。
掲載時はモノクロだった絵に、著者がのちに色を加えた。
3.「北風とぬりえ」
〈第1部〉8作品〈第2部〉11作品〈第3部〉10作品からなる、すべてモノクロで描かれた挿絵入りの著者の少年時代の自伝的小説。
4.「おまけ」
巻末とじこみ絵と文の小読み物「冬虫庵氏と知論氏が喧嘩をした話」
著者は幼いころから重い喘息だったそう。「パーっとしない少年」と自身のことを表わしています。「北風とぬりえ」では、そんな少年時代が描かれています。
哀しみや悩み、ささやかな喜びと希望の物語が、ときに現実と想像が入り混じったような文章で書かれています。夢と現実のはざまのような幻想的で、恐いような淋しいような不思議な体験も。
本書は児童書のジャンルには入っていませんが、1、2、4は子どもが見たり、読み聞かせにも適していると思います。3は中学生くらいからでしょうか。
著者と絵について…
著者は、1921年東京都生まれの画家。9人兄弟の6男。尋常高等小学校を卒業後、病弱のため進学せず、見習い工員などをしながら独学で絵を学ぶ。
1955年、「文藝春秋」臨時増刊「漫画読本」に発表した「行ってしまった子」(「おとなの絵本」より)で第一回文藝春秋漫画賞を受賞。
翌1956年、「週刊新潮」の創刊号から表紙絵を担当。以後1981年までの25年間、一回も休むことなく描き、総点数は1336本。1981年逝去。
「週刊新潮」表紙絵を代表に、ノスタルジックな昭和の風景、日本人の心の奥底に宿る光と影、どこか郷愁を感じさせる作風。
著者曰く「ぼくは頭の中に引き出しがあるんです」。旅に出てもスケッチはほとんどせず、独自の感性と想像力で描いていたとのこと。
その作品は、実際にそういう場所があるわけではないのに、なぜか見たことがあるような行ったことがあるような気持ちになります。
神奈川県横須賀市にある横須賀美術館には、谷内六郎館があり、遺族より寄贈された1300点以上の作品を年4回約50作品テーマ展示しています。
ひとつひとつの作品に、懐かしさと温かさと、画家の鋭い独創性を感じます。
DVDもありました。岸本加世子さんの語り、聞いてみたい。
そして、著者は今でいう「イクメン」だったらしい。
積極的に家事や育児を担当し、その子育て観は、「すべての子どもは天才である」。
子どもとの向き合い方は、決して叱らず、優しく、真剣に諭す。子どもが誰かに嫌なことをされたときは、「なんでそんなことしたんだろう、一緒に考えよう」と寄り添い、子どもの話をじっくり聞いたそう。
著者が家族のために作っていた得意料理「いくらでもスープ」は、美味しくていくらでも食べられるからと家族が名付けた、言葉を聞いただけで温かい気持ちになるネーミングです。