山で採れた天然もののザクロをひとつ買いました。少し時間を置いてから真ん中あたりを割ってみると、照り輝いた深紅の粒々が賑やかに並んでいました。開いた瞬間に山の晩秋が心に飛び込んで来ました。
「火をぬすまれただちょう」(蝸牛社 1991年7月 初版) 絵・文 セイフ・エディーン・ロウタ 訳 遠山 博文
本書を開いた瞬間も、ザクロのときと同じように独特のあざやかな色彩が一気に押し寄せてくるような感じがしました。
躍動感のあるタッチで描かれているのは、大きな目と長い首、力強い脚にふさふさした黒い羽毛のだちょうと、森林に息づくの草や木や花、そして鳥やけものたち。
熱帯森林の強い生命力を感じる絵です。
どんなストーリー…
「おはなし おはなし もろこしきびの ちいさなくき」
アフリカの民話ではこのような語句で物語がはじまります。
(フルフデ語でいうと、taatel,taalel,gommbel,bommbel.だそうです。)
そういえば、「むかし むかし あるところに…」と、日本にも同じようにはじまりのことばがあります。
物語は、アフリカ人の言い伝えを基に
『人がどうやって火を手に入れたか。』
『だちょうはなぜ飛ばなくなったのか。』について語られています。
この「森の男とだちょうのはなし」、ラップのようなリズミカルな文章で綴られていきます。
読み聞かせにも楽しそうですが、だちょうがそんなところに火を隠していて燃えないの?とお子さんに聞かれたときの言い訳を考えてから読むといいかも。
著者とスーダンについて…
著者は1953年スーダン生まれ。美術大学でグラフィックデザインを専攻。サウジアラビアの学校で子どもたちに美術を教える傍ら、作品制作に励む。ほかに第9回野間絵本原画コンクール大賞受賞作の「いきもののいろえらび」があります。
スーダン共和国は、アフリカ大陸北部にある面積250万K㎡の広大な国。日本の面積の5倍ほどです。
北部は砂漠、南部は雨季と乾季のある気候。
首都ハルツームは青ナイル川と白ナイル川の合流点に位置し、周辺の肥沃な農地では灌漑農業が行われています。
人口は、1991年作の本書によると約2400万人、2021年世界銀行調べでは4491万人。
南北対立による内戦や西部のダルフール地方での内戦など長期に渡る紛争により、国内経済が疲弊し、人びとの生活は、食糧不足・栄養失調、病気の蔓延など世界最大級の人道危機といわれる不安定な状態が続いています。
著者の近況は、ネット検索では辿りようがなかったです。現在絵を描かれているのか、だとすればどんな絵なのか。
本書が制作された時点でも、その環境は厳しいものだったと想像します。けれど本書で描かれている自然は生命の喜びに満ちています。小鳥たちがあざやかな羽を羽ばたかせて、楽しそうに空を舞う姿が美しい絵本です。