hon de honwaka

一期一会の本と日常のおはなし

【かんがえよう、コギト】なにか考えてます?

一番大切なことは、

「考えること」そのもの、なのかな?

「かんがえよう、コギト」

カクイチ研究所 ぷねうま舎

2021年7月26日 第1刷発行

文 アレクシス・ディーコン

絵 ヴィヴィアン・シュワルツ

訳 青山南

どんなお話…

主人公のコギトがいるところは

硬い殻に覆われた卵の中

 

コギトは生まれる前の雛のようです

 

目を覚ましたコギトは探検をはじめました

 

どこを?それは自分自身

 

そう、殻の中にいる今のコギトにとって

意識できる、存在するのは自分自身だけです

 

コギトは自分のことを

ひとつひとつ確認していきます

 

足の指、翼、くちばし、脚を動かして

 

コギトは思います

これが全て?

これが世界?

 

卵の殻の中のコギトのイラストは至ってシンプル

黄色い身体に黒い線で丸い目とくちばしと

小さな羽と細い脚が簡単に描かれただけ

 

でも大きく見開いたり

かまぼこのようになったりする目の動きで

コギトの感情が見事に表現されています

 

シンプルな色合いと言葉からは

力強くコギトの思想が伝わってきます

 

次に自分を囲む殻の存在に気付いたコギト

殻が自分の力で動かせることにも気付きます

 

そうやって徐々に、コギトは殻の外にも

世界があることに気付いていきます

 

この絵本の見どころは…

主人公の名前を読んで

もうすでにお察しの方も

いらっしゃるかと思います

 

コギト(cogito)の意味は「我思う」

 

更に、この作品の原題は「ERGO」

エルゴ(ergo)の意味は「故に」

 

そう、この絵本のテーマは

我思う、ゆえに我あり

(コギト エルゴ スム)=cogito ergo sum

 

フランスの哲学者ルネ・デカルト(1596-1650)が

フランス語で書いた自著「方法序説」の中で提唱した

有名な命題が基になっています

 

「我思う ゆえに 我あり」

どなたも一度ならず聞いたことがあるのでは?

私もそのひとりですが、今まで

その言葉の意味するところは

詳しく知ることはないままでした

 

今回少し検索してみましたが

私に簡単に説明できることではなさそうです

 

まずは私が読んで分かりやすかった

コトバンク」のサイトによる解説を引用します

世の中のすべてのものの存在を疑ったとしても、それを疑っている自分自身の存在だけは疑うことができない、ということ

 

いかがでしょうか。

みなさんはどんなふうに思われましたか?

 

コギトのユーモラスな表情が印象的なイラストと

誰にでもわかるストレートなコギトの言葉で

デカルトの提唱した奥深い命題の一端を表した本作

 

手に取った時には思いもよらなかった世界の入口へ

私を連れて行ってくれました。

 

あ、裏表紙のコギトがとても可愛いので

ぜひお手に取って見て下さいね。

 

 

 

 

【日常のこと】島から島へ(後編)

福島から徳島へ日帰り旅の忘備録の続きです

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そんなことで(詳しくは「前編」に)

無事手に入れた羽田発徳島阿波おどり空港行きの便は、

東北新幹線始発でも第一便は間に合わず第二便となりました

 

なんとか順調に羽田空港へ着き搭乗手続き

友のおかげでラウンジで休憩

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徳島空港へは11:30ごろ無事到着しました

ここでちょっとしたトラブル、というか

未然に防げたのでトラブル未満

 

時刻表に示された時間に空港前バス停に1台の路線バスが停車

なんの迷いもなく乗車する友と私

すると同じ便で降り立った旅行者風年配のご夫妻

その奥さまが運転手さんに大きな声で問いかけ

「このバスは大塚国際美術館に行きますか」

なんと!運転手さんは即座に「行きません」とお返事!!!

(へ?)友と私は慌ててバスを下車

危なかった、全然違うところに行くところだった。

行き先を大きな声で尋ねてくれた奥さまに感謝。

目当てのバスは少し遅れてやってきたのでした。

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(よく見ると「バスは遅れることがあります」と書いてあった)

 

この時がこの旅の一番の難関となりました

その後は比較的順調に旅は進みます

海岸沿いの美しい光景を眺めながらのバス旅

12時過ぎには美術館に到着です

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前もってコンビニで入場券を購入していたのでスムーズに入場

長いエスカレーターで上昇し展示エリアへ

昇りきったフロアの正面に、

かの有名な名画システィーナ礼拝堂天井画のレプリカが、

本場さながらの礼拝堂を再現した形で展示されていました

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ちょうどお昼時だったからかお客さん少な目

友の思い付きで備えられた長椅子に寝転んで

天井画を鑑賞、本物ではあり得ない鑑賞方法です

視界いっぱいに天井画が広がり

天井から絵が迫ってくるような感覚に

 

世界各地の名画が精密なレプリカとして一堂に会し

写真も撮り放題、本物とは違った楽しみ方もあるのですね

 

私は特にレンブラントの自画像が

時系列で展示されているブースがとても興味深かったです。

青年から晩年のレンブラントさん、並べて見ると初めの一枚と最後の一枚ではまるで別人!

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帰りは17:10発の飛行機に乗ることになっていたので

(この便でないと福島駅行きの新幹線に間に合わない)

美術館滞在時間は逆算して約4時間ほど。

 

見応え充分な美術館、

全てをじっくり見るのにはもっと時間が必要ですが、

お目当ての作品メインに効率よく周ると、

ランチとグッズ購入の時間を含めても充分楽しめ

満足度の高い鑑賞となりました

 

帰り道は地元のタクシー会社さんに

電話予約し美術館まで迎えに来てもらいました

電話口の受付の方もタクシー運転手さんも

柔らかいお国言葉がとても心地よい響き

道々美術館のことや海のこと地元のことをお聞きすると、

わかりやすく丁寧に説明してくださり、

温かい気持ちになりました

 

飛行機も10分遅れで離陸、

帰りの電車もほんの少しのアクシデントを除き

順調に進み22時台には自宅に到着

お泊りでないと確かに手荷物も軽くて動きやすく、

それでいて旅心をちゃんと味わえて楽しかったです

 

自分へのお土産は、

東日本では発売しなくなった

懐かしのお菓子「カール」

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美味しい〜そして

歯にくっつく感じが懐かし〜

 

【日常のこと】島から島へ(前編)

行けるんですね、と自分でも感心

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それは11月初頭のある一日の

弾丸プチプチ日帰り旅行

 

理論上は可能だけど実際はいかがなものか

と大なり小なり不安を抱えながら

 

構想約2カ月

その間同行の友と3回ほど会ってミーティング

ラインの打ち合わせは頻繁に執り行われました

 

ってそれほどたいしたことではないんですが

やってみました、福島 = 徳島 日帰り往復

 

目的地は鳴門市にある「大塚国際美術館

o-museum.or.jp

 

起案者の友が予てより行ってみたかったそうで

お誘いを受けましたが、家庭の事情で日帰り希望の私

その旨伝えると、お泊りより気楽でよいとお返事

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さて、ざっと日本地図を思い浮かべると

日帰りにはちょっと遠そうではありますが

まずはルートの検索と選定から始めてみることに

 

最初のプランは

福島空港~大阪伊丹空港~淡路島経由~目的地

このプランのネックとなったのは

淡路島の交通手段

美術館までの直行便バスも出ているのですが

福島空港からの便では間に合わない

ではレンタカーか?

運転できないことはなさそうだけど

やや、いや、ややややくらい無理がありそう

 

それに飛行機代を調べてみたら

通常料金だとけっこうなお値段

これ日帰りに見合ってる?ないよなぁ

 

そんなことを初回のランチミーティングで話し

別ルートを考えてみることに

 

すると数日後、友よりライン連絡

JALのスーパーセール」なるものがあるそう

やってみる?

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それではとルートや時間を本格的に調べてみることに

あれこれ悩んだ結果

 

福島駅~(新幹線)〜東京駅~(山手線)〜浜松町駅

(東京モノレール)〜羽田空港~(JAL)〜徳島阿波おどり空港~(路線バス・帰りはタクシー)〜大塚国際美術館

 

でチャレンジしてみようということになりました

 

JALのスーパーセール発売当日深夜

お互いに目的日&目的便のチケットを

発売開始時間とともにポチポチ連打

 

直接繋がることはありませんでしたが

「ネット予約のための待合室」に誘導され

2,30分ほどの待ち時間ののち

サイトにアクセスできました

 

なんと超お得なお値段

通常価格のほぼ4分の1です

急に気が大きくなる私、GOGOGOです

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写真は美術館で食べた海鮮丼

わかめがご飯と同じくらいの分量で入っていました

わかめは徳島県の特産品です

 

(プチ旅は後編へと続きます)

 

 

 

 

 

【いいもの みーつけた】森に落ちていたのは…

みんなが大好きなアレでした

「いいもの みーつけた」

新日本出版社 2012年12月30日 第1刷)

文・絵 レオニード・ゴア

訳 藤原 宏之

どんなお話…

森の中に落ちていたのは、一冊の本

鮮やかな赤色の表紙が印象的

森に住む動物たちはみんな興味津々です

子ウサギも大きなクマもネズミの家族も

その本を一目見るなり惹きつけられます

 

でも、みんなそれが「本」だとは知りません

それぞれがそれぞれに合った使い方を考えます

帽子にしたりテーブルにしたり

体の大きさに合わせたり

その時の動きに合わせたり

 

動物たちの自由な発想と

それを表現したイラストがユニークで

思わずクスッと微笑んでしまいます

 

森の動物たちにいろいろな使い方をされた本

 

物語の最後に現れた

賢い人間の男の子に拾われることになります

 

その男の子は森の地面に落ちていた

赤い本を手に取るとページをめくって…

 

さて男の子はどんな使い道をしたでしょうか

 

この絵本の魅力は…

原作の英文タイトルは

THE WONDERFUL BOOK」(素晴らしい本)

作者の本への愛が溢れたタイトルです

冒頭の読者に対するメッセージには

おとなから こどもまで

本が だいすきな

せかいじゅうの いきものたちの ために

と書かれています

 

イラストのユーモラスでほのぼのした雰囲気は

柔らかく細い線で描かれた輪郭に

ブラシの動きを使って立体感を出した色付けで

巧みに表現されています

 

デフォルメとシンプルが優しく溶け合って

どの動物も親しみを覚える動作や表情です

 

大きい動物も小さい動物も

自分に合った使い方を考えて試してみる姿が

愛嬌があって見ている側も楽しくなりそう

 

本にこんなに使い道があったなんて!

と感心したり笑ったりしましたが

ふと自分も昔、分厚い広辞苑を枕がわりにしたり

重しに利用したことを思い出しました

 

そして…

もちろん最後は見事に

本は本としての役割を果たします

それは男の子も、森の動物のみんなのことも

心から楽しませて笑顔にするものでした

 

【コーネリアス】レオ=レオニの絵本

我が道を行けますか?

コーネリアス たってあるいた わにの はなし」

作 レオ=レオニ

訳 谷川俊太郎

好学社 発行

 

どんな絵本…

コーネリアスとは主人公のワニの名前

 

この絵本は、「スイミー」や「フレデリック」で有名な

絵本作家レオ=レオニさんの作品のひとつです。

原作は1983年に発表されました。

 

主人公のコーネリアス

生まれた時から他のワニとはちょっと違ってます。

 

卵から孵るときに

他のワニが這ってでてきたのに

コーネリアスだけ二本足で歩いてでてきます。

 

他のワニはそんなコーネリアスを不思議そうに見ています。

でもコーネリアスは、そんなこと全然気にしません。

 

大きくなってもコーネリアスのスタイルは変わらず。

二足歩行で、他のワニたちに言います。

「ぼくには くさむらの ずっと むこうが みえる!」

それは這って生活している他のワニにっとっては

一度も見たことのない光景です。

 

でも他のワニたちは無関心。

「それが どうしたっていうのさ?」

 

そんな仲間のワニたちを後に

コーネリアスは二足歩行で出かけることに。

そして行く先々でたくさんの出会いを経験します。

 

自由な発想と自然体で柔軟な心のコーネリアス

なんにでも興味津々

その出会いを通して新しいことにまた挑戦。

 

そして親切な猿から

とっておきの技を教えてもらいます。

スペシャルテクニックを身につけたコーネリアス

その技を携えて仲間のワニの元に戻りお披露目。

果たしてその結果は…?

 

絵本の魅力は…

同調圧力に屈することなくマイペース

ついには他のワニたちの心にも新しい風を吹き込む

自由な精神の持ち主コーネリアス

たくさん勇気を貰えそうな絵本です。

 

ユーモアたっぷりのイラストは

フロッタージュ(拓本的な技法)と切紙を使った技法。

穏やかな黄緑色を基調とした色合いで

緑成す自然が活き活きと軽妙に

写し出されていきます。

 

愛嬌があり親しみを感じるコーネリアスの描写に

思わず笑みがこぼれること間違いなしです。

 

自分はこれが良いと思っても

周囲とあまりに違い過ぎると

臆することがあるかと思いますが

コーネリアス

そんなあなたの背中を押してくれるワニです。

 

谷川俊太郎さんの

大人にも子どもにもスッと心に沁み込むような

さりげなく素敵な日本語訳も必読です。

 

【犬になった王子】チベットの民話

原題は「青稞(チンコウ)種子的来歴」

「犬になった王子 チベットの民話」

岩波書店 2013年11月15日 第1刷発行) 

文 君島久子  

絵 後藤 仁

この絵本の魅力…

物語を彩る画家による日本画の絵が素晴らしい。

まず表紙の美しいイラストに目が行きました。

 

画家はこの作品を描くに当たって

実際に物語の故郷であるチベットの各地を

20日間ほどかけて写生旅行したそうです。

 

静謐ななかに高貴な風の香りを感じる風景

真っ直ぐで志の高い主人公の凛とした風貌

当時の民族衣装の趣きある色彩などなど

日本画独特の描線が

民話の細やかな雰囲気を醸し出しています。

 

どんな物語…

チベットのプラ国の王子

名前はアチョ

 

食べ物の少ない自分の国に

穀物の種を持ち帰るため旅に出ます。

 

目指すのは山の神リウダさまのところ。

遥か彼方のその地へ行くのは

とても危険なことです。

 

恐ろしい獣たちに襲われたり濁流に飲まれて

お付きの者たちは辿り着く前に死んでしまいます。

 

やっとのことで辿り着いた先にも

数々の困難が待ち受けています。

 

恐ろしい相手にも臆することなく

勇敢に立ち向かうアチョ王子は

様々な困難の末にようやく種を手に入れますが

その相手の魔力によって

姿を犬に変えられてしまいます…

 

物語の由来は…

本作著者あとがきによると

この物語は、チベット族の居住地域の中で最も東北部にあたり、古い文化を残しているといわれる、四川省アバ・チベット族チャン族自治州の中心地、マルカン一帯に広く伝承しているものです。

チベット人の主食ツァンパの原料となる

青稞(チンコウ:大麦の一種)の種が

どのようにしてチベットの広い大地に

普及されていったか。

この民話はそこから端を発して

語られ始めたものです。

 

全編を通して、

真っ直ぐな志を持つイケメン王子が

自分の命も顧みず、国民のために働く

ドキドキハラハラの連続と

そこに美しい純愛ロマンスも加わって

当時この民話を伝えた人々は

この物語に心躍らせ

勇気をもらっていたのではないでしょうか。

 

【家をせおって歩く かんぜん版】タイトルそのままの本です

家って背負えるんだ⁉

「家をせおって歩く かんぜん版」

福音館書店 

2016年3月1日発行

2019年3月10日 増補版第1刷) 

作 村上慧

 

どんな絵本…

表紙を開いた瞬間に、

その光景に吹き出してしまいました。

 

この作品は、写真絵本となっています。

イラストは全て著者によるもの

そこに、こちらも著者による実体験を収めた

歩く家の写真が掲載されています。

 

家に足が付いているわけではありません。

まさに著者が自身手作りの家の中に入って

家を背負って歩いているのです。

 

だた歩いているのでもありません。

著者はそこに住んでいます。

全国各地、果ては日本を飛び出し海外で

その土地土地の、どなた様かの土地をお借りして

住んでいきます。

 

そう、家に住むためには土地が必要です。

どんなに小さい

この場合なら人がひとり寝転ぶスペース

狭い家でも土地がなければ住めませんし

無断で勝手に住み着くこともNGです。

 

そのため著者は

あらゆる場所で、土地の所有者に許可を得てから

その地に落ち着きます。

 

道路を歩く様子はまるでゆるキャラ

四角い窓が前と左右についた

それでもしっかり屋根付きの

全体が白い小さな家からは

著者の膝下から足だけが見えています。

 

家の素材は発砲スチロール

ドアにはポストや鍵

表札もついていれば、神棚も備えられています。

材料費は合計2万円くらいだそうです。

外観は飾りもついてオシャレです。

 

著者による持ち物のイラストを見ると

衣類に寝袋にパソコンと生活必需品が揃っています。

 

本書では家で生活するために必要な

「食べる」ことや「眠る」ことから

雨風から「家を守る」ことまで

さまざまな事柄をユニークな写真とイラストで

具体的に紹介しています。

 

絵本の魅力は…

これを見ていたら自分もやりたくなる人が

きっといるんじゃないかと思いました。

私もちょっと興味をそそられています。

 

著者の村上慧さんは

1988年生まれ。東京都育ち。

武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。アーティスト。

2014年4月から自作した発砲スチロールを

使って生活を始める。(本作プロフィールより)

 

旅する家とともに歩く著者は

その土地の人や風景との出会いも綴っています。

車なら一瞬でわき目もふらずに通り過ぎる商店街にも

そこに住む人たちの生活があり笑顔があり

美しい空や山並みがあり美味しい空気があることを

歩く家は教えてくれました。

 

発想のユニークさにひたすら感心し

楽しそうな数々の写真やイラストに

固定観念にとらわれない

自由な考え方と実行力はこれからの時代一層

必要になるのではないかと感じた本でした。