原題は「青稞(チンコウ)種子的来歴」
「犬になった王子 チベットの民話」
(岩波書店 2013年11月15日 第1刷発行)
文 君島久子
絵 後藤 仁
この絵本の魅力…
物語を彩る画家による日本画の絵が素晴らしい。
まず表紙の美しいイラストに目が行きました。
画家はこの作品を描くに当たって
実際に物語の故郷であるチベットの各地を
20日間ほどかけて写生旅行したそうです。
静謐ななかに高貴な風の香りを感じる風景
真っ直ぐで志の高い主人公の凛とした風貌
当時の民族衣装の趣きある色彩などなど
日本画独特の描線が
民話の細やかな雰囲気を醸し出しています。
どんな物語…
チベットのプラ国の王子
名前はアチョ
食べ物の少ない自分の国に
穀物の種を持ち帰るため旅に出ます。
目指すのは山の神リウダさまのところ。
遥か彼方のその地へ行くのは
とても危険なことです。
恐ろしい獣たちに襲われたり濁流に飲まれて
お付きの者たちは辿り着く前に死んでしまいます。
やっとのことで辿り着いた先にも
数々の困難が待ち受けています。
恐ろしい相手にも臆することなく
勇敢に立ち向かうアチョ王子は
様々な困難の末にようやく種を手に入れますが
その相手の魔力によって
姿を犬に変えられてしまいます…
物語の由来は…
本作著者あとがきによると
この物語は、チベット族の居住地域の中で最も東北部にあたり、古い文化を残しているといわれる、四川省のアバ・チベット族チャン族自治州の中心地、マルカン一帯に広く伝承しているものです。
チベット人の主食ツァンパの原料となる
青稞(チンコウ:大麦の一種)の種が
どのようにしてチベットの広い大地に
普及されていったか。
この民話はそこから端を発して
語られ始めたものです。
全編を通して、
真っ直ぐな志を持つイケメン王子が
自分の命も顧みず、国民のために働く
ドキドキハラハラの連続と
そこに美しい純愛ロマンスも加わって
当時この民話を伝えた人々は
この物語に心躍らせ
勇気をもらっていたのではないでしょうか。