今まで小説の読み方間違ってたかも。
「ちくま小説入門【改訂版】高校生のための近現代文学ベーシック」
編:紅野謙介/清水良典
筑摩書房 2022年10月15日
本書の紹介…
タイトル通りあきらかに高校生向けに作られていますが、元高校生の大人も充分楽しめる作品だと思います。読書好きでなくても、これから本をちょっと読んでみようかな、でも長編小説はハードルが高いなと迷われている方には超おすすめ。
本書は二部構成となっています。
「第一部 小説への招待」では小説の読み方を解説、本文によると
小説を読むうえで押さえておきたい基礎的な知識、読解のポイントを具体的にまとめ、小説の魅力や、その広がりについて言及した。…
とあります。
芥川龍之介の「蜜柑」という短編小説を題材にした小説の読解解説は目からうろこ。こんな風に情景や心情を意識しながら読んでこなかったので、今までの長い読書経験は間違ってた?と考えさせられました。
そんな小説を読むためのレクチャーを受けたあとの第二部は、テーマ別に5章に分けて、多くの人が一度は聞いたことがありそうな作家の魅力的な短編小説が多数掲載されています。以下に簡単に概要と感想を。
「第二部」
第一章 出会いの物語
「ボッコちゃん」星新一/「ふたり」角田光代/「郵便局で」中村文則/「蝗の大旅行」佐藤春夫/「芝居がはねて」アントン・チェーホフ
※「蝗」って皆さんは読めますか?私は読めませんでしたのでそんな方向けに、読み方は「いなご」です。
(感想)
星新一さんは子供のころ好きで何度も読んだ作家さん。ボッコちゃんとは何度目かの再会。何でもない会話なのに、ボッコちゃんとお客とのオウム返しの会話が導く結末が何回読んでも怖い。
第二章 ここではない別の場所へ
「銀の匙」中勘助/「唇に小さな春を」稲葉真弓/「ポチ」村田沙耶香/「ひよこトラック」小川洋子/「わたしの騎手」ルシア・ベルリン
(感想)
「銀の匙」を読んだら、日本人で良かったなぁとしみじみ。古き良き時代の日本人の細やかな心模様が、些細な情景を表す言葉遣いにもうかがえて味わい深いです。
もひとつ「わたしの騎手」についても。この作家さんの作品、ずっと気になっていましたがまだ未読のままでした。本書の掲載短編のなかでも短いほうの作品ですが、個性がくっきり際立って、読者の側に体当たりしてくるような文章だと感じました。評判になっていた文庫本、買いに行かなくちゃ。お試しにぜひ本作を。
第三章 見えるものと見えないもの
「満月」吉本ばなな/「闇の絵巻」梶井基次郎/「乞食王子」石川淳/「柳の木」萩尾望都
(感想)
萩尾望都さんの作品は漫画。ほとんど言葉は無く、絵だけで表現されています。人物の表情や時の移り変わり。言葉はないけれど、そこには多くの感情が語りつくされています。
第四章 語りの力
「箪笥」半村良/「どよどよ」小池昌代/「孤憑」中島敦/「セメント樽の中の手紙」葉山嘉樹/「黒猫」E・A・ポー
(感想)
「黒猫」を読中読後ご立腹の私。なにに腹立てているかって?大作家のポーさんにです。なぜかって?私は今黒猫を飼っているからです。こんなの書いちゃダメだって。黒猫に危険が及ぶきっかけになりそうで心配。
第五章 私らしさを探して
「なんて素敵にジャパネスク」氷室冴子/「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」村上春樹/「待っている女」山川方夫/「四月の魔女」レイ・ブラッドベリ
(感想)
「四月のある晴れた…」村上春樹さんは、こんな短い作品でも村上春樹さんにしか作れないんじゃないのかなっていうワールドを作り上げてしまうんですね。それもサラッと。
どの小説も数ページの短さだし、試験問題のように小説の末尾に読解問題が付いていて(後付けでちゃんと解答も添付されています)、どこから読んでもいいし、問題はやってもやらなくてもよいと思います。私は気分でタイトルから選んだり、気になっていた作家さんのを先に読んだりしました。学生向けだからか生真面目そうな表紙ですが中身は多彩で面白いので元高校生にもぜひ手に取っていただきたいです。