hon de honwaka

一期一会の本と日常のおはなし

【麦畑のみはりばん】ひとりぼっちのかかしの絵本

当ブログではアフェリエイト広告を利用しています

カラスもかわいいよ。

「麦畑のみはりばん」

化学同人 2022年9月 初版第1刷) 

文 ベス・フェリー 

絵 テリー・ファン&エリック・ファン 

訳 よしいかずみ

どんな絵本…

原題は「THE SCARECROW

主人公は「かかし」です。

SCARECROWなら「かかし」ですが

SCARECROWなら「カラスを怖がらせる」

本作の主人公のかかしは

真逆の存在として描かれています。

 

見渡すがきり広々とした麦畑の真ん中に

ポツンとひとり立っているかかしがいます。

秋の麦畑は黄金色に輝いています。

 

そのかかしは、麦わら帽子に

茶色のチェックのシャツと

継ぎはぎのついたオーバーオール姿。

 

中にいっぱいの藁を詰めたまん丸の麻袋が顔。

絵の具で塗られたようなブルーの目と

鼻はオレンジ色の三角の布。

口のところは、ちょうど麻袋が破れてしまったのを

縫い合わせたのでしょうか

細長く縫い付けられた破れ目は

口角が上がっていて

ニンマリ微笑んでいるように見えます。

 

麦わら帽子の下から飛び出した藁が

金色の髪の毛に見えます。

では、胸元から飛び出している藁は胸毛?

ふさふさしてとても暖かそう。

どんなストーリー…

かかしのお仕事は麦畑の見張り番

柵を越えて動物たちが入ってこないように

大きく両手を広げて畑を守っています。

秋も冬もずっと

かかしは広い麦畑のなかでひとりぼっちです。

 

ところがある日

麦の穂が真新しい黄緑に色づいて

たんぽぽの綿毛が空中に舞い飛びはじめたころ

かかしのそばになにかがポトンと落ちてきました。

 

それは小さな一羽のカラスのヒナ。

 

このかかしとヒナの出会いの場面が素敵なので

その部分を抜粋します。

かかしは おもわず

せなかの さおを ぽきりと おって

ゆっくり かがみました。

そして、ひなを すくいあげたのです。

かかしさん、動けたんだ。

これまでは仕事に専念するために

じっと同じ姿勢でいたのですね。

 

ふかふかの胸元でヒナを温めると

ヒナは元気を取り戻しました。

かかしに見守られて

ヒナはすくすくと成長していきます。

そしてある日巣立ちのときがやってきました。

 

幸せな気持ちでカラスを見送ったかかしでしたが

またひとりぼっちになってしまいました。

カラスとの楽しかった日々のあとに訪れた

ひとりぼっちの空間は

かかしの心に今までにないほどの

悲しみや寂しさをもたらします。

イラストと文の魅力は…

甘くなり過ぎない、それでいて

温かみのある美しいイラストは

かかしのそのときどきの喜びや悲しみ

様々な感情を情緒豊かに表現しています。

 

飾らないわかりやすい言葉で書かれた

かかしの心の動きも静かに胸に響きます。

 

かかしの秋冬春夏

出会いと別れと再会の物語は

読者の心にきっと優しい春風を

運んでくれることと思います。