今週読んだ2冊のご紹介です。
まず1冊目はグリム童話です。
「あめふらし」
訳:若松宣子
絵:出久根育
(偕成社 2013年10月 初版第1刷)
以前紹介した絵本で出久根育さんの絵が好きになりました。もっと作品を見てみたいと思い手に取った一冊です。
言わずと知れた、ではありますが、まずは「グリム童話」について、本作の紹介文より抜粋しつつ概略を。
兄ヤーコブと弟ヴィルヘルムのグリム兄弟によって収集編纂されたドイツの民話集で、正式名称は「子どもと家庭のための童話」。知らなかった。真面目な教育本のようなタイトルだったんですね。
第一巻が1812年、第二巻が1815年に出版、その後七版まで改訂されて1857年の出版が決定版といわれています。
本作「あめふらし」は決定版グリム童話の191番目にあたります。
さて、”あめふらし”って何?よくわかっていなかった私は、まずそこからスタートです。Webで”あめふらし”を検索すると・・・わぁぁ。トップに現れたのはその画像。全体像です。へぇぇ。生き物かなとは思っていましたが、けっこうインパクトありました。うにうにむにゅむにゅしています。
ウィキペディアによると、「アメフラシ(雨降らし、雨虎、雨降)は、腹足網後鰓類の無楯類(Anapsidea,Aplysiomorpha)に属する軟体動物の総称。」だそうです。ふーん。体長は15cm程度、海に住んでいてウミウシやクリオネと親せきらしい。主食は海藻で、皮膚に毒があり、刺激を受けると紫色の液を出す、美味しくない、雌雄同体で連鎖交尾する、等々。なかなか個性的な存在です。
”あめふらし”が何かを調べるだけでも、だいぶ楽しめました。
それでは”あめふらし”についてなんとなく理解が深まったところで物語について。
美して頭も良く、けれどなんでも自分の思い通りにしたい、そのためには人を殺すことも厭わない王女に持ち上がった結婚話。結婚したくない王女は、次々現れる求婚者にある条件を提示します。条件をクリアできれば結婚、できなければ・・・なんとさらし首です。
ついには城の前に97本の杭に刺さったさらし首が並ぶことに。それでも運試しにと求婚する三兄弟が現れて・・・
白雪姫にせよ赤ずきんにせよ同様の気配がありますが、本作でも、迷いなくさらし首にしてしまう王女が登場したり「グリム童話」ってじわじわと怖ろしいです。正式名が「子どもと家庭のための童話」ってなぜに?と思わずにはいられず。
この物語から私に伝わってきたのは、「取り引き」と「不条理」と「秘密保持」。
最後の求婚者である若者は、王女や森で会ったカラス・魚・キツネとある取引をすることで自身の身を守り(=取り引き)
動物たちは結局割に合ったのか合わなかったのかわからない結末を迎え(=不条理)
都合の悪いことは絶対黙っているべきと感じる締めくくり(=秘密保持)
ここでようやく思い至りました。確かに「子どもと家庭のための童話」だと。世の中はままならないもの。その最初の縮図が家庭内。生き抜くためには賢く取り引きし、上手に不条理と付き合い、噓も方便で秘密保持を貫くことも大事。この物語には現実社会に必要な家庭円満のための秘訣がしっかり詰まっておりました。
そして、この物語の怪しい魅力を見事に描いたイラストが本当に素晴らしい。出久根育さんのダークで幻想的な絵は美しくも怖ろしいグリム童話にぴったりで、物語の世界にすんなりと連れて行ってくれます。
ところで、この作品の原題はドイツ語で「Das MEERHÄSCHEN」。翻訳すると「シーバニー」と出てきましたので、シーバニーでも検索してみました。すると、「あめふらし」の画像とは異なるウサギ似の可愛らしい姿が現れました。個性豊かな「あめふらし」と可愛らしい「シーバニー」、物語の作者やグリム兄弟はどちらをイメージしていたのかが気になります。
そうそう、あめふらしがどんな存在どんな場面で登場するのかは物語を読んでのお楽しみに。
もう1冊はアーノルド・ローベルさんのさかさ絵の絵本です。
「ぐるんぐるんつむじかぜ」
訳:ふしみみさを
(ほるぷ出版 2013年8月25日 第1刷発行)
原題「THE TURNAROUND WIND」(逆転の風)
アーノルド・ローベルさんといえば、私も以前紹介したことがありますが仲良しカエルがまくんとかえるくんの「ふたりはともだち」シリーズを書かれた方。
この絵本は、絵本をひっくり返しながら見る逆さ絵が次々出てきます。
登場するのは爽やかな青空の下、草原を散歩して歩く人たち。「オルガン弾きとサル」や「乳母と赤ちゃん」、「市長と奥さん」や「泥棒」までいます。
大勢が一堂に会した草原に、突然黒雲が現れつむじ風が吹き付けると、人々をあっという間にひっくり返してしまいました…
次のページから出てくるのは、ひっくり返った人びとの顔、顔、顔の大写し。太った旦那さんを逆さまに見るとほっそり奥さんが現れたり、赤いつば付き帽子をかぶった農夫を逆さまにすると立派な角に長い舌が特徴の牡牛に変身したり。
何作か、例えば猫を抱いた紳士と猫のさかさ絵など、無理があるんじゃないかと思う絵もありましたが、肖像画のような威厳のある佇まいのさかさ絵は見ごたえがあります。
それにしても初めから逆さ絵だとわかっていると先読みしてしまいます。ついつい逆さまを想像して絵を見てしまい、船酔いしているような気分になりながら読みました。