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一期一会の本と日常のおはなし

【旅のネコと神社のクスノキ】あの時のヒロシマの絵本

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昨年8月発行。

「旅のネコと神社のクスノキ

スイッチ・パブリッシング 2022年8月 第1刷)

文 池澤夏樹  

絵 黒田征太郎

どんな絵本…

タイトルから旅行記かと思い手に取りました。

内容は想像とは全く違うものでした。

 

本作は

「ダイアログ

旅のネコと神社のクスノキ

陸軍被服支廠

「ヒストリー

陸軍被服支廠

の2部構成となっています。

 

ダイアログの舞台は

広島市にある「陸軍被服支廠

ときは1945年の7月はじめと9月末

陸軍被服支廠」は古くて大きな煉瓦の建物です。

 

その傍らに立つクスノキ

旅するネコとの対話から描かれるのは

広島に原爆が落とされた8月6日の前後のこと。

 

その絵は

建物や兵隊さんに木片のオブジェを使ったり

色鉛筆やパステルや水彩を要所に織り交ぜた

抽象的な表現です。

表現することの非常に難しい

当時の厳しく混沌とした状況に対する

画家の思いが込められているように感じました。

どんな内容…

7月のはじめ

ネコはクスノキから「陸軍被服支廠」が

どういうところかを教えてもらいます。

それはとても悲惨なものです。

戦争のための軍用品を作るこの施設は

一度使われた穴の開いた軍服も再利用します。

 

・・・・・・・・

 

そして9月末

戦火を逃れたネコが再びクスノキの元に。

山ひとつ隔てた「陸軍被服支廠」は

奇跡的にその形を残し、原爆で被災した

市民たちの収容施設となっていました。

 

ネコとクスノキの対話は

目を蔽い耳を塞ぎたくなるような惨状を伝えますが

それでも

芽を出し葉が伸びる植物たちに希望の光を見ています。



もうひとつの「ヒストリー」には

著者の池澤夏樹さんによる

陸軍被服支廠」についての詳しい解説や

「なぜ原爆は広島に落とされたのか?」

についての考察が書かれています。



この絵本のテーマは非常に重いものです。

そして現在にも必要なものです。

「ダイアログ」は

短く易しい言葉で書かれていますので

小さなお子さんへの読み聞かせもできると思います。

 

「ヒストリー」の付記に

保存されることになった「陸軍被服支廠」について

著者は4棟のうち1棟を

「歳月を計る指針」として

補修せずそのまま残すよう提案されていました。

実際には4棟全部が補修保存されることが決まった

(付記の付記に記載)そうですが。

 

保存するにしても

そのまま朽ち果てるまで現状で残すにしても

辛い過去を振り返るには

現在に一定の余裕が

それを許容する社会が存在しなければ

望み通りにはならないことだと思います。

 

保存もそのままも、どちらも

過去の記憶を未来へ活かすためという

目的は同じだとすれば

何よりも二度と悲惨な戦争を

起こさないようにしなければなりません。