人間の本質とは。
「毒もみのすきな署長さん」
(mikiHOUSE 2022年10月 初版第1刷)
作 宮沢賢治
絵 山村浩二
どんな絵本…
表紙見開きの本の紹介文には
賢治童話の深淵がかいま見える異色の傑作
とあります。
一読では理解しがたい気になって
短くて簡単に読める文章ですので
思わず一気に3回ほど読み返しました。
不思議、奇妙、気味が悪い
でもなんだかもう一回読み返してみたい。
そんな気持ちになります。
どんなお話…
カラコン山のふもとにある
プハラという町が舞台です。
(プラハではなくプハラです。)
画家による町並みの絵には
どこか西洋の異国情緒が漂っています。
ですが、町の中を通る大きな川の
河原の風景は日本の田舎でもよく見かける様子。
そんな宮沢賢治さんの創り上げた
架空の町で起こる不可思議なお話です。
お話の中心となるのはこの町のある国の掟
法律といっていいかもしれません。
それは
「火薬を使って鳥をとってはなりません、
毒もみをして魚をとってはなりません。」
というもの。
「毒もみ」とは
山椒の皮を剥いて加工して布袋にいれたものを
水の中に入れて手で揉みだす行為。
これをすると、
その毒を飲んだ魚がみんな死んでしまうのです。
これは、
やってはいけないきまりになるのも当然のこと。
ところがある日を境に
川に死んだ魚が浮いていたり
山椒の木の皮が剝がされていたり
このきまりを破っている者が現れたようなのです。
・・・その犯人は…と
すでにタイトルがそれを物語っていますね。
優しい色合いの作風で
笑顔を湛えながら
無機質な目やナマズのような口ひげで
不気味さを醸し出している表紙の署長さんの絵が
このお話の全体のイメージを見事に表現しています。
犯人を見つけたのは町の子どもたち。
子どもたちは立派な制服にも
立場にも惑わされることなく
犯人の不可解な言動を突き詰めていきます。
物語のお終いは
捕まった犯人の言葉で締めくくられています。
行った悪事も恐ろしいですが
その行為に対する犯人の気持ちを語った
この言葉はもっと恐ろしい。
聞いた町の大人も子どもも唖然とした
その言葉を皆さんならどう思われますか。
やめられないとまらない悪事
人間の持つダークな一面が
宮沢賢治さんの独特の語り口と
世界のなかでじわじわと描かれていきます。
私の中の何かも刺激されたかされたからなのか
ついつい4度目の再読に向かいそうです。