hon de honwaka

一期一会の本と日常のおはなし

【奈良監獄物語】旧奈良監獄の歴史絵本

当ブログではアフェリエイト広告を利用しています

100年の歴史から学ぶことは。

「奈良監獄物語」

~若かった明治日本が夢みたもの~

小学館クリエイティブ 2019年6月 初版第1刷)

文 寮美千子 

絵 磯良一

読むきっかけを…

この本は図書館の

児童書歴史コーナーのなかで

ひときわ異彩を放っていました。

 

硬質で厳かな文字とイラストの表紙。

監獄という重い印象の文字が

太い明朝体の漢字で記され

クラッチ・イラストレーション

という技法で作られたイラストは

重厚で静かだけれど強い迫力。

怖いような気持ちで手に取りました。

どんな内容…

文章は旧奈良監獄、建物そのものの

一人称で語られていきます。

その文章も居住まいを正して

読みたくなるようなものです。

 

サブタイトルは「若かった明治日本が夢みたもの

明治時代のはじめ

この建物が建てられることになった理由から

現在に至るまでの監獄の歴史を

日本の未熟で愚かで情けない部分も隠すことなく

監獄自身の目線で語ります。

 

今となっては先進国の仲間入りを果たし

多くの人が先進国であるという意識を

当たり前に保有していると思いますが

100年前はそうではなかったことがわかります。

 

奈良監獄が建てられることになった

理由もそこにあります。

 

日本の監獄はその昔罪人をぞんざいに扱う場所でした。

西欧諸国からの批判を受け

「近代的な監獄」を目指して建設された

「明治五大監獄」のうちのひとつが奈良監獄です。

 

1908年(明治41年)完成した奈良監獄は

西洋から「受刑者の人権」についても学んだ

司法省の技官・山下啓次郎が設計しました。

 

「受刑者の心を癒す建物に」という彼の思いが

西洋風の外観や赤煉瓦の壁など

建物のすべてに詰まっています。

明治から大正・昭和・平成と時の流れとともに

その役割は「奈良監獄」から「奈良刑務所」

そして「奈良少年刑務所」へと移り変わりました。

 

少年刑務所となった奈良監獄には

周囲の住民たちも協力して

助け合いや思いやりの精神に満ちた

少年たちへの更生活動が行われました。

 

このときの奈良監獄自身の言葉は

誇りと喜びにあふれています。

著者について…

作者の寮美千子さんは1955年東京生まれ。

のちに奈良市に移住。

2007年から足掛け10年、

奈良少年刑務所で、夫の松永洋介さんとともに

「社会性涵養プログラム」の外部講師として

絵本と詩の授業を受け持ちました。

 

画家の磯良一さんは1962年群馬県生まれ。

この絵本のイラストは、

クラッチ・イラストレーション

という技法で描かれています。

「スクラッチ・イラストレーションとは、

黒く塗られた石膏版(スクラッチボード)の表面を

ニードル(針)で削ったり引っかいたりして

白地の絵を浮かび上がらせる手法」だそうです。

その絵をスキャナーで取り込み、

コンピューターで色をつけたものが

この絵本のイラストです。

お薦めのポイントを…

本書では日本の良いところばかりでなく

そうでなかったことや時代のことも

きちんと書かれています。

 

自分の欠点や失敗を真っ直ぐに見つめて

受け止めることは

次への成長に繋がると思いますので

その意味でも価値のある作品です。

 

現在は「国の重要文化財」に指定され

観光施設になっている旧奈良監獄。

近いうちに一度は訪れて見たい場所です。

 

写真や動画も満載で見応え充分なホームページも

どうぞご覧ください。

former-nara-prison.com