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一期一会の本と日常のおはなし

いちばん美しいクモの巣

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一年以上ぶりに連絡をくださった方がいて、来週はその方の発表会を見に行きます。またお会いしたいと思っていたのでうれしい。

「いちばん美しいクモの巣」詩人が贈る絵本(みすず書房 2001年12月 発行) 文 アーシュラ・K・ル=グウィン  絵 ジェイムズ・ブランスマン  訳 長田弘

 

 

まず感想から…

読み終わってから数日が経ちましたが、気品感じる文章で編まれたこの物語の雰囲気に今も浸っています。

特別に飾り立てた言葉で語られているわけでもない、ごく平易な文章なのですが、とてもエレガントな印象を受けました。

 

本書は、前に記事にした「空飛び猫」の作者ル=グウィンによるもの。「詩人が贈る絵本」シリーズのなかの一冊です。訳者である詩人の長田弘は、この本を贈る絵本に選んだ理由を、「この絵本を手にしたという記憶を、できるだけおおくの人と共有したかったから」と言っています。

 

日本ではあまり好かれているとは言えないクモ、私もクモの巣にうっかり引っ掛かったりすれば、慌てて払い除けていましたが、本書を読んだあとはちょっと見る目が変わったかも。

これからは、どこかで美しい形状のクモの巣を見かけたら、この絵本の主人公、彼女の子孫かも?って敬意を持って眺めるかもしれません。

 

物語を彩る絵も魅力的です。濃淡のある柔らかいオレンジ色をベースに、黒一色のとても繊細な線で描かれた絵は、まるでクモの糸で描いたようです。

 

どんなストーリー…

主人公は、人が誰も住まなくなったお城にいる、リーゼ・ウェブスターという名のかわいいクモ。

広いお城のなかで、クモたちはいつもクモの巣をかけるのに良い場所を探しています。

リーゼもそのひとり。

お気に入りの場所を見つけて、ウェブスター一族なら誰でも容易にかけることのできる、美しくて無駄のない見事なクモの巣をかけてみます。ですがある日、まだ誰も作ったことのない世界で一番美しいクモの巣をかけてみようと思うのです。

 

どうやったら美しいクモの巣を編めるだろう。

 

リーゼは一生懸命、いろいろな編み方を試してみます。

 

リーゼの美しいクモの巣を作りたいという純粋で真っ直ぐな思いが文章から伝わってきて、私も清々しい気持ちになりました。

 

しばらくして、誰もいなかったお城を博物館にしようと人々が訪れるようになり、リーゼの身にもある大きな変化が訪れます。

 

そしてある夏の朝、自分の編んだクモの巣を見て、ついにリーゼはつぶやくのです。「これは、わたしのつくった、いちばん美しいクモの巣だわ」

 

「いちばん」だって決めるのは誰?他者の評価より自分の心が良いと思うことが大切だと、改めて気づかされる物語でもあります。

 

本書の見開きより…

作者の紹介文に素敵なことが書かれていたので記します。

「書くことは夢を翻訳すること」(ル=グウィン

オレゴンからの贈り物であるこの絵本は、人びとに幸運をもたらすと伝えられてきた愛すべきクモたちへの讃歌としてつくられた。今日見ることができる美しいクモの巣がつくられるまで、実に4億年ものあいだ、自然の織物の名手であるクモたちは、毎晩努力を積みかさねてきたのである」(ジェイムズ・ブランスマン)