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一期一会の本と日常のおはなし

どこかにある不思議な沼

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今日は午後、以前から楽しみにしていたある方の講演会に行きます。どんなお話しが聴けるかワクワクしています。

「ソロ沼のものがたり」(岩波書店 2022年5月 第1刷)作者 舘野 鴻(たての ひろし)

どんな本でしょう…

遥か山の向う、海へと流れる川をどんどんさかのぼって行くと、風も音も無い静かで暗い森のなかへたどり着きます。そこには古い水のにおいがする、赤黒い沼があります。ここが物語の舞台です。

 

先月通った、海沿いの地域へと続く高速道路からの風景を思い出しました。

運転していたのでじっくり見ることはできませんでしたが、道の両側は行けども行けども底の見えない深い森。見渡す限り、濃いみどりと灰色がかったみどりと茶色くなりつつあるみどり。

ここに高速道路ができたことが不思議なくらいの山のなかでした。

目に入って来る景色に、そこには人の足を踏み入れたことのない未知の地がきっとあって、人の存在など知る由もない生きものが日々の営みにいそがしくしているのでは、と思いました。

 

本書は、そんな場所にありそうな「ソロ沼」の周りにいる生きものたちの物語です。

どんな物語…

もくじを見ますと、9つの短編から編成されています。

「ソロ沼御前」「みずすまし」「おけら先生」「じゃこうあげは」「ぎんいろてんとう」「やんまレース」「おさむし戦争」「かすみあまつばめ」「かえるのヨズ」、どれも想像を掻き立てられます。虫が主人公なのかな?

 

どの作品も、自然のささやかな変化やダイナミックな動きを的確なことばで表現しています。写実的な表現なのに幻想的、という印象を受けました。

 

そして、「ソロ沼御前」は可哀想でちょっと怖いお話、「みずすまし」は個体としてではなく全体を詩的であり写実的に捉えた作品、「おけら先生」は心が温まる童話世界、と作品ごとに趣きが異なります。

 

「じゃこうあげは」は、何かが足りないと憂いている方が前を向くきっかけになるかも。

 

「おさむし戦争」は、戦争の無意味さ虚しさを見事に表現。今、全ての人に読んでほしい。

 

そして最後の「かえるのヨズ」は、ほかの作品より少し長めの物語です。

ヨズとほかの生きものたちの関わりを通して、作者の死生観、生きるとか死ぬということについて、現代人が忘れかけていることが詰まっている気がしたので、いろいろな世代の方に読んでいただきたいです。

 

優しいお話もありますが、淡々とした語り口で、甘くない、というか塩辛い生きもの一生が語られています。

著者について…

1968年神奈川県横浜市生まれ。2005年より絵本創作を始める。徹底的な観察をもとに描かれる繊細かつダイナミックな作品で知られる。

本書にも文章を縁取るように、自然を淡い色合いで精密に描いた絵が添えられています。

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