あの「風と共に去りぬ」を上回り、アメリカで年間ナンバーワンのベストセラーになったこともある絵本です。
「はなのすきなうし」(岩波書店 1954年12月第1刷 2014年9月第60刷) 文 マンロー・リーフ 絵 ロバート・ローソン 訳 光吉夏弥
まず読もうと思ったきっかけを…
作者のマンロー・リーフ。先日記事にした「みんなの世界」を書いた方。作者のプロフィールを調べていたら、興味深いエピソードに遭遇しました。
本書の原題は、「フェルディナンドの物語」といい1936年に書かれました。以下ウィキペディアより抜粋です。
…フェルディナンドは平和主義者のシンボルと見なされていたため、スペインの田舎で闘牛よりも花のにおいを嗅ぐことを好む穏やかな雄牛に続く物語は、かなりの論争を巻き起こしました。スペインで禁止され、ナチスドイツでプロパガンダとして燃やされたこの本は、60以上の外国語に翻訳され、絶版になったことはありません。…
スペイン内戦(1936から1939年)の最中という時代背景もあるでしょうが、作者がイラストレーターの友人のために1時間もかからずに書き上げた子ども向けのお話しに大人がこれほど反応するなんて、一体どんなお話しなんだろう、読んでみたいと思いました。
ストーリーと感想を…
イラストの主人公の雄牛フェルディナンドの表情は、どこかとぼけた感じさえする、のほほんとした顔。
ほかの若い牛たちは、いつもぶつかりあったりして争う遊びを好んでいる。フェルディナンドだけは別。丘の上で、のんびり花の匂いを嗅いでいるのが大好き。
逞しい雄牛に成長しましたが好きなことは相変わらず。ところがある日あるアクシデントが起きて、マドリードの闘牛場へ連れて行かれることに…
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読後時間が経てば経つほど、フェルディナンドの佇まいが心に響き味わいが深まる物語です。反対意見の方たちが脅威に感じたのも理解できました。
そのときどきで世間にはそれが当たり前、主流となる価値観があると思います。多くの人が良いと思うことが正しいことに。時代と共に変わることもあるけど、そこに生きるものはその価値観に無意識のうちに縛られていることも。そして状況によっては、自分の考えを消し去るような強い価値観もあるかと思います。
🌻🌻🌻
周りはみんな闘牛になることが素晴らしいと思ってます。けれど、フェルディナンドは、ひとりでもさびしくもなく、いつでもどこでもマイペースに自分の好きなこと、花の匂いを嗅ぐだけです。
何があっても慌てるでもなく怒るでもなく、いつも静かに好きなこと。一番手強いタイプです。
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こんなに短く平明なわかりやすい文章で、こんなに深い事柄を表現できるんだと感動しました。しかもまるで押し付けたところがない。
大騒ぎの世間の反応に、作者は「フェルディナンドが花の匂いを嗅いで戦わないのは、良い趣味を持ち、また優れた個性に恵まれていたからだ」と言ったそうです。
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はなのすきなニンゲンが増えてくれるといいなぁ。
それから、一コマしか登場しないフェルディナンドのお母さん牛の対応も素敵なので、注目してください。