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一期一会の本と日常のおはなし

永いお別れに

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秋の深まりを感じる夕暮れ。なんの理由もなく物悲しくなることも。でも本当は、じっと心の奥を覗いてみたら、なにか理由があるのかも。

「すいがらとバラと」(偕成社 1997年5月第1刷) 作者 ヴィヴェッカ・レルン  絵 イェシカ・パルムグレン  訳者 菱木 晃子

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どんなストーリー…

この作品の舞台は、スウェーデンのヨーテボルイです。作者が生まれたところ。

主人公の「わたし」は16歳の少女。家族は、パパとママと弟のジミー。

5歳年下のジミーは、でも、今「わたし」の傍らにはいません。

太陽のように輝いていたジミーは、1年前、10歳で死んでしまったのです。

 

この物語は、少女の一人称で、弟ジミーと過ごした日々の記憶が描かれていきます。それは、楽しいこともあれば、悲しいことも、悔やむこともあれば、受け止めきれないことも。

「わたし」の記憶は、辛く苦しいこともありますが、ジミーと過ごした喜びの日々をしっかり覚えています。悲しみに埋め尽くされそうなときも、輝くようなジミーの笑顔が「わたし」の心を明るく照らします。

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親しい人、大切な人との別れには、100人いたら100通りの向き合い方、受け止め方があると思っています。

このことに、マニュアルはありません。

ただこの物語を読んで、主人公の「わたし」のように、少し時間が経ったら、その大切な人と過ごした日々、場所や会話や笑顔を、心の奥底に閉じ込めてしまわずに、言葉にしてみてはと思いました。

 

タイトルの「すいがら」と「バラ」がある場所は、ジミーが最後の3年間を過ごした病院の庭のベンチです。ここには、ジミーとの悲しい思い出も愉快な思い出も詰まっています。

確かにジミーはそこにいて、そして今も「わたし」の心のなかにいます。

著者について…

作者のレルンは、1944年スウェーデン生まれ。絵本から小説まで幅広いジャンルで執筆するジャーナリスト兼作家。本国では、ミミとエディの児童書シリーズで有名です。

画家のパルムグレンは1958年生まれ。グラフィックデザインや挿絵の仕事に携わっている。本書での軽いタッチのイラストは、物語に柔らかな優しさを与えてくれています。

いつか、のために…

重いテーマですが、主人公「わたし」の静かな語り口が心に優しく響き、素直に耳を傾けることができる物語です。

強い日差しの夏が去り、夕暮れの訪れが早くなりました。晴れた日の、穏やかな光が注ぐ窓辺でもう一度読み返してみたいと思います。

 

最後に、この物語の家族全員にとって、思い出深い、みんなが幸せを感じた愉快なシーンに出てくるこの曲を、どうぞ。

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