hon de honwaka

一期一会の本と日常のおはなし

きっかけは些細なこと

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朝晩は涼しくなってきましたが、日中はまだ夏の名残りがそこかしこに。

絵本のなかは冬なので、ちょっと早いかな?

「スープとあめだま」(岩崎書店 2022年2月第1刷 闇は光の母(5)) 作 ブレイディみかこ 絵 中田いくみ

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「ゆき やむといいね」…

いきなりですが、主人公の少年のこの言葉で、物語は締めくくられています。誰かのこと他者のことを思い口をついて出た、思いやりの込められたこの言葉が、読む側にも優しく響きます。

寒さで凍えそうなある日、特にやることもないのでついていった、姉のボランティア活動、そしてはじめて訪れるシェルター。そこには街のホームレスの人たちが集まっています。少年は戸惑いながらも、温かいスープを提供するお手伝いをします。

きっかけはとても些細なことですが、この日の経験が少年に新たな感情をもたらします。今まで遠くに感じていたであろう、少し怖くて近寄りがたい存在だったホームレスの人々が、自分の行いに「ありがとう」と言ってくれるひとりの優しい人間であることに気が付きます。

絵の雰囲気がとても素敵です。物語全体を包み込むような、淡いオレンジ、暖色系の色合いがこのお話しの内容の温かさを象徴的に表していて、とても穏やかな気持ちになりました。この絵の不思議さは、物語の舞台が日本かもしれないしイギリスかもしれない、台湾のようにもみえることです。そんなどこにでもいそうな人たちの物語。

著者について…

言わずと知れた方だと思いますが、ブレイディみかこさんは、1965年福岡市生まれで、1996年から英国ブライトン在住のライター・コラムニストです。代表作「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞やYahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞されています。そのほかにも著書多数。

中田いくみさんは、埼玉県生まれの造形作家。同作でも装画を担当しています。2020年8月から台湾で暮らしていると本人のTwitterに書いてありました。

読後にふと…

以前読んだ新聞記事を思い出しました。うろ覚えなので正確でなかったらすみません。昭和の名優高倉健さんに、東日本大震災を経験した小学生が宛てた手紙についての記事でした。そこには、「どうやったら良い人になれますか。」という質問が書かれていました。高倉健さんの答えは「良い人に会うことです。悪い人にばかり会っていたら良い人にはなれません。」というようなことが書かれていたと記憶しています。

本作でも少年はホームレスに感謝され「良い経験」をします。「嫌な経験」ばかりしていたら悪い印象が強まるばかり。どの人にもこの少年のように、ささやかでも「良い経験」があり、その次も続いて、たくさん積み重なってほしいです。

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